第15話 みたものは *刑事*

*中年男性(刑事)*


「雨、強くなってきましたね」


 運転する新人が言う。


「そうだな」


 来たときは小雨だったというのに、滝のような雨だ。


 気分が重くなる。


「今日は……えーっと、聖さん? いませんでしたね。あと、空気重かったですよね」


「お前も感じたか」


「はい」


 言葉にしようのない空気の重さがあの屋敷には漂っていた。


 雨のせいではない。


「あの二人は絶対になにか隠してる」


「どうしてそう思うんですか。証拠ないですよ」


「刑事の勘だ」


 即答した。


 笑われるかもしれないが、長年刑事をやっていると感じることがある。


「そうですか」


 新人はそれだけ言って、運転に集中することにしたようだ。


 カーブにさしかかる。


「えっ」


 異変が起きたのはそのときだった。


「えっ」


「どうした」


「ブレーキがっ」


 その言葉だけで察した。


 ブレーキが効かないのだ。


 来るときに異常はなかった。


 どうして。


 あの小鳥が犯人か?


 いや、そんな時間はなかった。


 彼女はずっと我々と話していた。


 ならば犯人は……。


「クッソ」


 新人は必死にハンドルを操作してカーブを曲がる。


「おい、ハンドブレーキは!」


「効きません!」


 下りのため、どんどんスピードが上がっていく。


 ブレーキもハンドブレーキも効かない。


「おいあれ!」


 二人揃って焦る中、雨で視界不良だというのに、真っ白なワンピースを着た髪の長い女性と思わしき人物の姿がハッキリと見えた。


「ぶつか――」


 新人は慌ててハンドルを切る。


 それがいけなかった。


 車はスリップし、気づけばガードレールを突き破っていた。


「…………い」


 意識が飛んでいたらしい。


 全身が痛い。


 エアバッグは全く意味をなさなかったらしい。


 血でまみれている。


 なんとか目を開ければ、割れたフロントガラスの間から上の方に途切れたガードレールが見えた。


 落ちたのだと一瞬で理解した。


「……お……い」


 新人の方へなんとか顔を向ける。


「……おい」


 反応がない。


 頭から大量の血を流している。


「……クッ……ソ」


 視界がぼんやりとしてくる。


 まずい。


 ここで意識をなくしたら助からないと本能が告げている。


 抗おうとするが、ダメだ。


 どんどん薄れていく意識。


 ふと上を見た。


「え」


 何故だか白い服の女がニヤリと笑ったのが、ハッキリと見えた気がした。


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