幕間

第10話 思い出

 今日はとっても久しぶりの、二人揃っての遠出。


 家から3時間~3時間半の場所。


 ここは、私たちが出逢った思い出の児童養護施設。


 周囲に民家はない。


 詳しい経緯は省略するけれど、二人ともネグレクトされてここに放り込まれた。


 因みに、施設は小鳥が出た翌年に閉園済み。


「よいしょっと」


 ガチャンと大きな音がして門に目を向ければ、


「開いたよー」


 持参していたトンカチで、小鳥がカギをぶっ壊していた。


「ありがとう」


 広いグラウンドが特徴の施設。


 もう自力で歩くことに困難が生じている私は車椅子に乗り、小鳥に押してもらって久しぶりに入る。


 薄汚れた三階建て。


「中、入る?」


「不潔そうだから嫌よ」


「えー聖が行きたいって言ったくせに」


 言葉とは裏腹に、口調は全く責めていない。


「まっ、私も来たかったんだけどさ。来年取り壊されるんだもん」


 その優しさが嬉しい。


「そうね……私が手を回せば取り壊しを阻止できるわ。どうする?」


「別にいいよ。過去は過去だもん。聖がいなくなったら、もう二度と来ないだろうし」


 坦々と言って、小鳥は車椅子をブランコの横まで押した。


「こいだらぶっ壊れそうだけど、座るぐらいなら大丈夫かなあ」


「腰かけるぐらいなら大丈夫だと思うわよ」


「りょ」


 彼女は恐る恐るブランコに座った。


「あ、大丈夫っぽい」


「良かったわね」


 グラウンドを見渡せる位置にあるブランコ。


「おままごとして遊んだの覚えてる?」


「覚えているわ」


 私たちが一緒にこの施設にいた時間は短かったが、何度か彼女の遊びに付き合った思い出しっかりと覚えている。


「思い出の場所がなくなるのは寂しいわね」


 オレンジ色に照らされ始めた景色を眺めながら呟いた。


「聖がなんていうか、センチメンタル? なこと言うの珍しいね」


 センチメンタル、か。


 たしかにこういうことを言うのは珍しいわ。


「ねぇ、小鳥」


 彼女の言葉には答えず、問う。


「私がいなくなっても、狩りは続けてくれる?」


「聖が望むなら続けるよ」


 即答。


 力強い返事。


「ずっと傍にいてくれるなら」


 先ほどとは売って変わって弱弱しい声。


 答えられない。


 答えてあげられない。


 自分のカラダが限界だと感じているから。


 もしかしたら、今日、明日死ぬかもしれない。


 ごめんね、小鳥。


「そう、お願いね。大丈夫、ずっと一緒よ」


 こみ上げてくる悲しみを堪え、なんとか言葉を紡いだ。


「約束だよ」


 ブランコから立ち上がり、小鳥は小指を差し出した。


「指きりげんまんね」


「うん」


 彼女の温もり。


 大切な、愛おしい人との約束。


 小鳥には後片付けの方法や手入れの方法を丁寧に教えてある。


 ひとりにするのは心配だけど、この子なら大丈夫。


 きっと。

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