第5話 捜索
客間のソファに座った彼はすぐに話し出した。
「先ほどもお話しした通り、現在行方不明となっているハル……本名『井上はる』さんを捜しています」
因みに、コーヒーや紅茶などの飲み物は出していない。
歓迎していないもの。
礼儀がないと思われたっていいわ。
「行方不明なんですか」
彼の真向かいに座った私が喋る担当。
小鳥はすぐにボロが出るから。
黙っている担当。
「ええ、そうなんです。どこにいらっしゃるか、お心当たりはありませんか」
「どうして私が知っていると思うんですか」
ゆっくり、余裕たっぷりに見えるように答える。
私たちは無関係だと主張するように。
「メンバーのみなさん1人ひとりにお尋ねしていることです」
刑事は坦々と話す。
「聖さんはグループでイジメにあっていたそうですね」
「そう……ですね」
彼女たちのイジメは些細なこと。
けれど、塵も積もれば山となる。
私物を隠したり、飲み物に洗剤を入れたり。
他のメンバーは見て見ぬふり。
誰も助けてくれなかった。
私はグループを辞めて関わりはなくなったけれど、私と同じようにイジメられていた一人は自殺してしまった。
思い出したくもない、忌まわしい記憶。
「日本に帰って来ていたことをご存知だったんじゃないですか?」
刑事の言葉で意識が現実に戻って来る。
「知りませんよ、そんなこと」
知っていた。
だからこそ、殺した。
私が辞めた後イジメがバレて、彼女たちはグループを脱退させられた。
「いなくなる直前、彼女の周りをうろついている人物が確認されています」
「そうなんですか」
こちらも坦々と答える。
白を切り通す。
絶対にボロを出しちゃいけない。
私たちの日常を守るために。
「本当になにもご存知ないですか」
「……知りません」
首を横に振る。
しつこいわね。
早く帰ってほしい。
その気持ちを押し殺し、彼の質問に答え続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます