第1幕 日常

第1話 釘バットを作りたい!

「釘バットを作りたい!」


「いきなりなによ」


 自室に籠もって本を読んでいたら、ノックなしで小鳥が勢いよくドアを開けて入って来た。


 今日は“狩り”がない日。


 小鳥が人を攫ってくるのは、月曜日と水曜日。


 二人分の食事だし、私は少食だからそれで十分生きていける。


「だからね、釘バットを作りたいの!」


「それはさっき聞いたわ」


 全身黒。


 お気に入りの襟つきシャツに、スキニーパンツ。


 夏だというのに暑くないのかしら。


 人のこと言えないのだけれど。


 私は私で、真っ白なワンピースを着ている。


 裾を引きずる丈の。


 お互い様ね。


「あのね」


 目をキラキラ輝かせた可愛い小鳥が話し始めた。


「私が家にいない間、誰か来たら聖は守るものがないでしょ」


「キッチンに包丁があるわ」


 人肉をさばく用のものが。


「今の聖じゃ、キッチンに行くまでに殺されちゃうよぉ」


「呑気に言ってくれるわね」


 たしかに、ゆっくりとしか歩けない私は、誰かがこの屋敷に侵入してきたときすぐに殺されてしまうでしょう。


「でしょ? 聖の護身用に作っておこうよ」


 椅子に座った私に歩み寄り、片膝をついて小鳥が見上げてくる。


「今日も可愛いわね」


「ありがとっ……じゃなくって!」


 頬を膨らませた顔。


 まるでエサを口いっぱいに入れたリスみたいで愛らしい。


「ダメ?」


 上目遣い。


 あざといわね。


「ダメではないわ。ところで、どうやって作るか知っているの」


「知らない!」


「元気よく返事することじゃないわよ。ちゃんとドリルで穴を開けてからじゃないとダメなのよ」


 ため息をついてそう言うと、


「釘を打つだけじゃダメなんだねー」


 首を横に少し傾けて笑う小鳥。


 可愛いわ。


 毎日、毎時間、毎分、毎秒可愛いのよ。


 ちょっとお馬鹿で幼い言動も、表情も。


「仕方ないわね」


 呆れつつ立ち上がる。


「地下室へ行きましょう」


「はーい」


 なんだかんだ言って言うことを聞いてしまうのは、親馬鹿ならぬ小鳥馬鹿なのかもしれない。


 デスクの上のものをどかし、


「よいしょっと」


 二人でデスクを横にずらす。


 彼女がカーペットをめくっている間に、本と本の隙間に隠している鍵を手に取る。


「聖ぃ」


「はいはい」


 甘えた声で呼ぶ声に応え、隠し扉の鍵を開ける。


 ガチャリ。


 小鳥が扉を持ち上げた。


「行きますかぁ」


「えぇ」


 電気をつけた彼女が先に階段を降りていく。


 もし、私が足を踏み外したとき、クッションになれるように。


 私はそんなことする必要ないって言ったのだけれど。


 小鳥は小鳥で私に過保護ね。


 小鳥馬鹿と聖馬鹿。


 階段を数段降り、扉を閉め鍵をかけた。

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