19. 案件
朱雀に呼ばれ、佐助はダンジョンのB1階へ降り立った。髪は銀色で、腰に長剣を佩き、黒い鎧を着ている。『
行き交う人々を眺めながら、佐助は思う。
(それにしても、忍者が増えたな)
忍び装束を着ている冒険者が明らかに増えた。朱雀によると、忍者のジョブの実を求める人が増え、忍者の『ジョブの実』が現在枯渇しているらしい。増えた理由は、RTA走者のサスケ。颯爽と現れ、颯爽と消えた男の影を、多くの冒険者が追っている。また、ジョブの実を食べれば、簡単にジョブを変更できるため、お試しで忍者になろうとする人も多いらしい。誇らしいような、そっとしておいてほしいような、複雑な気持ちで佐助は街を歩く。
佐助は裏路地に入って、朱雀に指定されたバーに向かう。人気のない通りにあるバーの扉を開けると、朱雀がテーブル席に座っていた。優雅にコーヒーを飲み、佐助に気づいて、微笑みかける。
「おはよう、佐助君。いや、小次郎君だったかな」
「おはようございます」
「違うだろ?」
「……おはようでござる」
朱雀は満足げに笑う。見た目だけではなく、口癖も変えることになった。変装するなら徹底的に。それが、朱雀の方針だった。
「コーヒーとお茶、どっちがいい?」
「お茶をお願いするでござる」
「OK。よろしく頼むよ」
朱雀が目配せすると、口髭を生やした若い男が頷く。
「彼は大学の後輩でね。昼間に人と話すとき、たまに借りているんだ」
「なるほど」
「どうぞ」とマスター。
「ありがとうでござる」
佐助はお茶を飲む。普通のウーロン茶だった。
「それで、今日は何の用でござるか?」
「会って欲しい人がいる。この前も言ったけど、君には配信を手伝って欲しいと思っている。それで今日は、その手伝って欲しい人との顔合わせ」
「承知したでござる。ちなみにどんな人でござるか?」
「若手女優とそのマネージャー。プロモーションの一環でダンジョン配信を行いたいらしい」
「有名な人でござるか?」
「いや、知らない。多分、君も知らないと思うよ。ただ、事務所はそこそこでかいみたいだし、ここで芸能界とのコネクションを作っておけば、今後、役立つかもしれないと思ってね。それに先方は君とのコラボを求めていたし」
「拙者と?」
「ああ。厳密に言うなら、『サスケRTAチャンネル』のサスケだけど。ただ、彼は伝説となったから、君に頼もうと思ったわけさ」
「承知したでござる。でも、意外でござるね。プロモーションの一環で、女優がダンジョン配信をするなんて。他の動画配信よりも危険を伴うゆえ、事務所が許可するとは思えないでござるが」
「軽く聞いた話だけど、女優の方が行き詰まりを感じているらしく、現状を変えるために新しいことを始めたいらしいよ。事務所的にも、ダンジョン配信の可能性を探るために許可を出したらしい」
「なるほど。まぁ、ありそうな理由でござるね」
朱雀がじぃと見つめてくるので、佐助は眉を顰める。
「何でござるか?」
「板についているんじゃないか? その喋り方」
「……誉め言葉として、受け取っておくでござる」
「そんなに卑屈にならずとも、誉め言葉だよ」
「拙者は忍者ゆえ、こういうのもやろうと思えば、できるのでござる」
「なるほどね」
そのとき、バーの扉が開いた。入ってきた人物を見て、佐助はお茶をこぼしそうになった。最初に入ってきたのは、学生時代にスポーツに打ち込んでいたような爽やかな好青年。問題はその後ろにいた人物。肩で切りそろえられた黒髪とぱっちりとした大きな目の愛らしい女。佐助はその女に見覚えがあった。中学時代に、自分に告白してきた
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