売れない女優のダンジョン配信ch
18. 行き詰まり
3年前に上京し、中堅芸能事務所に入るまでは順調だったのだが、それ以降は鳴かず飛ばずの日々が続き、うまくいかない時は、地元にいたクソムカつく女の言葉を思い出すようにしていた。
「あんたなんて、所詮、井の中の蛙。都会にはあんたクラスの女なんてたくさんいるわ。勘違いしてんじゃないわよ! ブス!」
その言葉で弱気な自分を奮い立たせていたが、次第にイライラだけが募るようになり、いつの間にか、その女のことは考えないようになった。
そして、やる気があるのかないのか自分でもよくわからないまま、時間だけが過ぎていき、大学生になった。良い機会だし、事務所を辞めようかと思った矢先、マネージャーのカベツヨ(足壁強)に言われた。
「ダンジョン配信をやってみないか?」
「……ちょっと考えさせて」
ダンジョン配信なるジャンルがあることは知っていた。しかし、興味がないので全く見たことが無かった。なので、まずはどんなことをやっているか調べようと思い、適当に動画を漁った。そして、ある配信を見て、椅子からずり落ちそうになった。あのクソムカつく女が配信していたのである。しかも、いわゆるカップル配信というのをやっていて、相方にも見覚えがあった。
(あれ? あのお気に入りはどうしたんだろう?)
あのクソムカつく女には、超が付くほどのお気に入りがいた。だから、別の人間とカップル配信をしていることが意外だった。しかし、配信を見て、想像していたカップル配信とは違うことを理解する。恋人同士というより、友達同士でやっている配信だった。あのクソムカつく女は、相方と常に一定の距離を開けているし、いつもつまらなさそうにしている。胡桃はその動画を見て、ほくそ笑んだ。
(こんな動画がウケるわけないでしょ)
しかし、登録者を見て驚く。登録者が2万人もいた。しかも、配信中は視聴者が2000人くらいはいた。
(はぁ? 何でこんなつまらん配信に、こんなだけ人がいるのよ)
胡桃は配信を眺め、その理由が分かった。あのクソムカつく女は、基本的に塩対応だが、まれにはしゃぐ時があった。そのときの様子が可愛らしく、いわゆるギャップ萌えと言うやつで、視聴者がブヒブヒ言っていた。
(うわー。これが陰キャの姫ってやつか)
しかし、これはチャンスだと思った。ダンジョン配信ならあのクソムカつく女を見返すことができる。こちらは腐っても女優。ちゃんとレッスンを受けているから、動画映えを意識した配信ができる。つまり、あのクソムカつく女を超えることなど造作もないことだ。
胡桃はすぐにカベツヨに連絡した。そして半年かけ、体つくりやダンジョンの勉強を行い、冒険者免許試験に合格した。
胡桃が胸を張って、冒険者免許を見せると、カベツヨは嬉しそうに拍手した。
「流石だよ、胡桃。君ならやってくれると思った」
「でしょ」
「これでダンジョン配信もできるね」
「ああ、そのことなんだけど、最初はコラボから始めない?」
「コラボ? 確かにその方が良いかもしれないが……」
「ん? 何か問題でもあるの?」
「あ、いや、とくにはないよ。でも、コラボするったって誰にお願いするんだ?」
胡桃は不敵な笑みを浮かべて言った。
「『サスケRTAチャンネル』よ」
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