12. お願い
佐助からの連絡。心は最近の気まずさを思い出すも、迷っている暇なんかなかった。イヤホンを装着し、電話に出る。心が口を開くより先に、佐助の声がした。
「今、大丈夫? 周りにモンスターとかいない!?」
佐助の慌てている様子がスマホ越しにわかった。心は周囲に視線を走らせる。気配はない。が、いきなり現れたりするので、警戒しながら答える。
「何?」
「猿吉から聞いた。今、B19階にいるんだろ?」
「そうだけど」
「帰還玉は無いの?」
「無い」
「大丈夫?」
佐助が心配してくれている。嬉しいのに、素っ気ない態度で返してしまう。
「大丈夫だけど」
「そっか。なら、今から……」
「……何?」
「あ、いや、俺もそっちに行くわ」
「は? 何で?」
「B19階を探索したい気分になったから」
「急に?」
「急に。心がいるって聞いたからさ。だから、力を貸してくれないか? 心がいないとB19階の探索が難しいんだわ」
「べつに、私がいなくてもできるでしょ」
「最近、気づいたんだ。俺、心がいないと何もできない」
「そんなことないじゃん。一人で配信とかしてるみたいだし」
「あれも心が応援してくれたから、できたんだよ」
「私はべつに」
「いつも俺の配信を見てくれるじゃん。ココアさんって、心でしょ」
「……気づいていたの?」
「当たり前だろ。いつから一緒にいると思ってんの。俺が何かをするためには、心の力が必要なんだ。だから、今回も力を貸してくれ! 頼む! 心の力が必要なんだ!」
佐助の言葉が、心の脳内で鳴り響く。
心の力が必要なんだ! 心の力が必要なんだ! 心の力が必要なんだ! ……。
その甘美な響きは、心の口元をにやけさせるには十分すぎた。
「……仕方ないわね。佐助がそこまで言うなら、手伝ってあげる」
「よし。なら、蓮の池の場所とかわかる? 多分、転送の魔方陣があった場所から北に2キロほど行ったところにあるんだけど」
心は頭の中で地図を広げる。蓮の池の場所はすぐにわかった。今のいる位置は、転送の魔方陣があった場所から少し離れているが、それほど問題ではない。
「うん。わかる」
「んじゃ、そこで。あ、でも、蓮の池の周りにはモンスターが比較的多くいるから、近くに隠れておいて。俺が合図を送る」
「了解。時間はどれくらい掛かりそう?」
「ここからだと5分かな」
「駄目。30秒で来なさい」
「善処するよ。んじゃ、また後で」
通話が終了する。心はにやにやしながらスマホをしまう。やはり、佐助には自分が必要だった。
(ようやく佐助もわかったか)
そのとき、心は気配を感じて、目を向ける。置き去りにしたはずの仏像が迫っていた。
「やれやれ。しつこい男は嫌われるわよ。私のことは、ほっとけなんてね」
心は軽快なギャグを交えながら、剣を抜く。左足の痛みはもうなかった。
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