第23話 最近はやりの「還流」
このところ、自民党派閥の政治資金パーティーに関連した政治資金規正法違反事件が、連日報道されています。
私が気になっていることの一つが、「還流」という言葉です。例えば、某全国紙の1面記事に、次のように書かれています。
「安倍派ではパーティー券販売のノルマ超過分を議員に還流していたが、(中略)5年間で還流分の計5億円が派閥側、議員側双方の収支報告書に記載されていなかった疑いがある。」(傍点は引用者)
「還流していた」ではなく、「還流させていた」と書くべきではないでしょうか?
還流は「キックバック」と同義に使用されていますが、動詞的に使う場合、別の複数の箇所、あるいは別の日の記事でも、「還流する」と書かれています。私は、これに違和感を感じます。
例により、「還流」を国語辞典を引くと、次のとおりです。
■『新明解国語辞典 第8版』:記載なし。
■『広辞苑 第7版』:蒸留に際して、発生した蒸気が凝縮したあと再びもとに戻ること。また、戻った液。
次に、ウェブ辞書である「コトバンク」を見てみました。
■「コトバンク」
【還流】(読み)かんりゅう(英語表記)reflux
<https://kotobank.jp/word/%E9%82%84%E6%B5%81-49756>
○精選版 日本国語大辞典 :「還流」の意味・読み・例文・類語
〘名〙
① 水や空気の流れなどが、方向を転じてもときた方へ流れること。また、比喩的に、物事がもときた方へもどることをもいう。
※海底旅行(1929)〈木村信児訳〉二「この還流する暖流に囲まれたのが藻海である」
※日本の土(1955)〈読売新聞社会部〉白い手の地主の悲哀「それは村へ還流することの少い教育であったかも知れないが、それでも農村を多少とも文化的にしたはずだ」
② 蒸気となったものを冷却し、凝結させて再び液体としてもとに戻すこと。
○デジタル大辞泉: 「還流」の意味・読み・例文・類語
1 蒸気となったものを冷却し、凝結させて再び液体としてもとに戻すこと。
2 (比喩的に)物事がもとの方向へ戻ること。「労働者が地方へ還流する」
※ 傍点はいずれも引用者。
上記の用例を見ると、動詞として使うときは、「する」を付けて自動詞として使うことが多いようです。
ですから、
「ノルマ超過分を議員に還流させていた」
または、
「ノルマ超過分は議員に還流していた」
とした方が、自然ではないでしょうか。
ところで、「キックバック」について、国語辞典は次のように説明しています。
■『新明解国語辞典 第8版』:(不正な)リベート。割戻し(金)。
■『広辞苑 第7版』:割戻し。リベート。
さらに、「割り戻す」について。
■『新明解国語辞典 第8版』:〔他五〕いったん受け取った金額の中から、ある割合の金額を返す。
■『広辞苑 第7版』:〔他五〕受け取った金額の一部を返す。
上記から、「還流させる」より「割り戻す」という語の方が、適切であるように思います。
つまり、
「安倍派ではパーティー券販売のノルマ超過分を議員に割り戻していたが、(後略)」
とする方が分かりやすいと考えます。
なぜわざわざ、「還流」というあまり耳慣れない用語を使うのか?
何か深い理由でもあるのでしょうか?
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