第9話 筆は踊れど、中身の薄いコラム
新聞は、事実や解説などを、誰にでも分かるように平易かつ簡潔に書くものだと、私は思います。
ところが時々、やや凝った表現、いわば文学的な装いの表現をしている記事を見かけます。しかし、得てしてそういう記事は、分かりにくい、独りよがりのものになりがちです。
某全国紙の政治・経済面に、この春就任した新社長を紹介するコラムが、不定期に掲載されていますが、今回取り上げるのはその一つです。
私は経済には詳しくないので、その会社の名前は初めて聞きました。証券会社のようです。ここでは、仮にM社と呼びます。また、インタービューを受けている新社長をS氏と呼びます。
普通はまず冒頭で、M会社について、ごく簡単でもいいから紹介するものではないでしょうか? 私のように、その会社の名を初めて聞く読者もいるはずですから。
ところが、本コラムはそうではありません。
「創業者で××年トップを務めた✖✖✖会長(前社長)の経営を継ぐ。2~3年で社長が代わる会社ではない。多様性のある企業風土を守りつつ、負けず嫌いの性格を前面に押し出し、より高い収益を上げていく。」
新社長・S氏の一人称、独白のような語り口です。
小説なら、それでもいいかもしれません。しかし、新聞のコラムなので、ちょっと面喰います。
それはおくとして、「より高い収益を上げる」のは企業としてごく当たりまえで、言わずもがなのことです。上記の部分から分かるのは、新社長は「負けず嫌いな性格」なのだということくらいです。
そのあと、M社が「性別や年齢、国籍でくくらず」、「イノベーション(革新)を起こしてきた」こと、会社規模や事業範囲を拡大してきたことを述べます。ただ、字数の関係からか、その内容にはほとんど触れていません。
上記に続くのが、本コラムの核心部分だと思いますが、また、新社長の独白のような語り口となります。
「しかし、自分の立場は、自身の強い思いで会社をつくってきた創業者と違う。会社の成長を担うという、会社の一部ファンクション(機能)という気持ちで取り組む。事業に優先順位をつけ、限られた経営資源をより効率的に投入する。将来的に『Sが、社長になってよかった』と思われる会社にしたい。」(傍点は引用者)
分かったようで、よく分からない文章です。
1) 前社長は「自身の強い思いで会社をつくってきた」と言っていますが、創業者なら誰だって、何かしら「強い思い」を持って会社を作るのでしょう。知りたいのは、その「思い」の具体的な中身です。
それとも、前社長はとてもワンマンだった、ということを婉曲に述べているのでしょうか?
2)「会社の一部ファンクション(機能)」とは、何なのでしょう? 社長も会社組織あるいは会社の機能の一部であることは自明の理であり、言わずもがなです。インタービューでS社長がそう言ったのなら、記者はその真意をもっと聞き出さなくてはならないのでは?
それに、冒頭の「負けず嫌いの性格を前面に押し出し」と、どこか矛盾するような気もします。
3)「事業に優先順位をつけ、限られた経営資源をより効率的に投入する。」これも、ごく当たり前のことです。まともな会社なら、どこも行っているはずです。
4)「将来的に『Sが、社長になってよかった』と思われる会社にしたい。」これも、言わずもがな。誰が、「あの人が社長になったのが良くなかった」と言われたいでしょうか?
最後の段落では、「金融界は、品ぞろえや手数料では差別化しにくい時代になった」と、金融界の現状を述べ、「M社の強みは証券基幹システムの内製化だ。顧客ニーズを踏まえて独自の情報やサービスを提供する。」と説いています。
「内製化」というのは、専門業務の外部委託を止めて、社内で行うことだそうです。しかし、上の文章だけでは、M社と「内製化」の関係がよく分かりません。(経済や金融業界に詳しい人には、理解できるのかもしれませんが)
結局、本コラムからは、S新社長がどのような抱負を持って、今後M社をどう引っ張っていこうとしているのか、はっきり伝わってきません。
インタビュアーの突っ込み不足によって、コラムの内容も空疎なものになっているように思えてなりません。
なお、本コラムの書き手が付けたのではないかもしれませんが、本コラムの見出しも、何やら空疎な感じです。
「金融革新へ思い負けぬ」
は?
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