第36話「階段の先に待つものは」
俺たちは魔王城の中で快進撃を繰り広げ、無事上階への階段を発見して、そのらせん状に組まれた階段を上っている。
その時だった、少し上階に進んだところでそこに蜘蛛の巣を発見した。焼き払おうか考えていたところマリアが顔を青くしていた。まさかそんなに強い敵がいるのか? いや、だとすれば天使の支援攻撃が発動していないのはおかしい。では一体何がこんな顔にさせているんだ?
マリアの視線を追うとそこに灰色の壁とほとんど同じような色をした大蜘蛛がいた。コイツが巣を張ったんだな。そして戦いの予感を見に受けたのだがその直後、甲高い悲鳴と共に蜘蛛の巣どころか大蜘蛛が壁ごと強力な光で吹き飛んだ。
天使の支援課と思ったが、隣で呼吸を整えているマリアを見て先ほどの攻撃がワンドから飛んだ光魔法であることに気がついた。
「マリア? どうかしたのか? 魔族を倒すのは分かるんだが、お前は魔族相手に悲鳴なんて上げなかっただろ」
青い顔が徐々に生気を取り戻していく。少し立ち止まってマリアが正気に戻るのを待った。
「ダメなんです……」
「え? 何がだ?」
マリアは俺の手を取って絞り出すように言った。その手にはじっとりと汗がついている。
「少し落ち着かせてください……私、蜘蛛はダメなんですよ、小さいものでも生理的にキツいですし、あんな大きな蜘蛛は見るのも嫌です。しかもモサモサと毛まで生えているんですよ! あんなのはこの世から消し飛ばすしかないんです!」
蜘蛛、苦手だったんだな。まあ普通の小さな蜘蛛を苦手にしているのに人の二倍ほどの大きさの蜘蛛が出てきたのだから怖いことだろう。
今までの戦闘で一番の破壊力を持った攻撃を蜘蛛に浴びせたので、その勢いで階段の横の壁が吹き飛び、何階かは分からないが、フロアに大勢の魔族が集まった場所と繋がってしまった。
「貴様ら! 人間風情が魔王城に来おって! 命知らずめ、死んで後悔するがよい!」
中にいたコウモリの魔族……かと思ったが牙があるのでおそらくヴァンパイアだろう……が声を上げて一斉に俺たちに襲いかかってきた。魔族が賢いのかどうかは分からないが、たった今蜘蛛を吹き飛ばした余波で割と多くの魔族が巻き込まれて死んでいたのだが、それでも実力の差というものが分かりはしなかったらしい。
「うざったいんですよ! まとめて死んでしまいなさい!」
マリアがワンドで光魔法を使用した。といっても階全体に対する攻撃ではなくヴァンパイアに向けて光線を浴びせた。窓があるので一応光のしたでも生きていけるくらいには強いのだろうが、圧倒的な光には耐えられなかったようで、その光を浴びて灰になってしまった。
そこから先はマリアが突っ込んで魔族を片っ端から殺していた。時折俺の方まで討ち漏らしたやつが来てはいるがあっさりと俺の剣に切られて死に、時々飛んできた魔法や矢、礫は天使の張ったシールドで弾かれた。
結果、俺たちはその部屋の魔族を皆殺しにした。こちらは一切損耗をしていない、戦いと言うよりは魔族からすれば虐殺に見えたのかもしれない。そのくらいの力の差は十分にあった。
そうして部屋が片付いたところで低い声が部屋に響いた。
「愚かな人の子よ……我に仇なそうとする資格はあるようだな。我とて部下たちが殺されるのは悼むのだ。そこに転移魔方陣を作る。貴様らが本気で我にたてつこうというのならば、この魔王『デウス』が直々に相手をしてやろう」
その声が響くと共に部屋の中央に魔方陣が現れ紫色に発光し始めた。魔王の言葉に嘘がないならこの魔方陣は魔王のところへの直行ルートだ。雑魚を倒しても魔王がいる限り出現するので大元を叩くチャンスだ。
しかし、それと同時にこの魔方陣がどこに繋がっているのか分からないという不安もあった。転移した先がマグマや針山の上というトラップの可能性はある。本当に魔王のところへ行けるのなら手っ取り早くて助かるのだが……
「この魔方陣の解析は出来るか?」
俺は天使にダメ元で訊ねてみた。魔王の使った魔法が解析可能かどうかは知らないが、一応神聖な存在で、魔力の高さを感じるので魔法に詳しいかもしれない。それに一縷の望みをかけた。
「可能です。解析しますか?」
「ああ、頼む」
頼んでみるものだな。こんな事まで出来るとは思わなかった。マリアは戦力としては優秀だが、こういう事を頼める相手ではないからな。出来ないとあっさり言われて終わりだろう。
天使はどこに目があるのかは分からないが、魔方陣に近寄ってじっと立っていた。一応顔を地面に向けているのだが、目があるようには見えないので、それがどういう理由なのかは分からない。
「解析終了しました。この転送魔法の先はここより地下深くのようです。その地点にある空間に繋がっているようです」
意外な結果だ、地下だと? 魔王だから最上階にいるのかと思っていたのだが……
「そこに魔王はいるのか? 地下に飛んで土に埋まるような可能性は無いのか?」
「その可能性も考慮し、転送先を解析しました。ここの地下深くに空洞が存在し、そこに強力な魔力を感知しました」
おお、この天使ってかなりの有能だな。こんな事なら召喚してからもっと頼っておけばよかった。今さらのことなのでそれは言うまい。
「そこからの帰還手段はあるのか? いくら魔王を倒しても生き埋めになるような場所なら行けないぞ」
「可能です、私が地上への転移魔法を使用出来ます、魔王討伐から私が消える前にお二人を地上に転送するには十分な時間があります」
帰りの心配も要らないってことか。実に有能だ。俺とマリアは戦いで負けないだろうが、地下深くから地上に出られる保証はない。この天使がいれば無事魔王を倒して買えるところまで保証してくれるようだ。
「聞いての通りだが、マリアはどう思う? 俺は信じられる話だと思うぞ」
「そんなことは聞くまでもないでしょう、魔王がわざわざ殺してくれと呼んでいるんですよ? これに乗らない手はないですよ!」
俺たち二人の意見は一致して、天使は俺に忠実なので、全員で魔王の誘いに乗ることが決定した。
魔方陣の上に立つと紫色の光がやや黒みを帯びて輝き、俺たちは最終決戦の場所へと転送された。
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