第35話「魔王城エントランス」

「これ、どうやって開けるかな……」


 俺は魔王城の立派な扉を見て考えていた。試しに手で押してみたのだが非常に重かった。鍵がかかっているのかもしれないが、どちらにしても開けるには力が必要そうだ。


「マイナーさん? 扉に興味があるんですか? さっさと入りましょうよ」


「気軽に言うなあ……どうやって開けるんだよ、鍵穴も無いしものすごく重いぞ」


 俺がそう言うと、マリアはキョトンとした顔で俺に言う。


「開けるのなんて簡単じゃないですか、私はてっきりこの扉に何か細工でも見つけたのかと思いましたが、そういったわけではないんですね?」


 俺は頷いた、するとマリアは『じゃあ今から開けるので私の後ろに下がってください』と言った。


 何か策があるのだろうと思い扉から離れてマリアの後ろに立つと、マリアは迷うことなく大剣を抜いて思い切り振りかぶった。


 そしてそれが振り下ろされると、扉が『消えた』てっきりマリアは扉を切り裂くつもりかと思ったが、そんな生やさしいものではなかった。


 重量感のあった扉は消し飛び、周囲の壁までその勢いに巻き込まれて消え去った。おそらく聖剣か何かなのだろうとは思うのだが、力の加減も何もない、圧倒的な力で全てを破壊する剣のようだ。


 扉が消し飛んだので『入るぞ!』と言って、おそらく混乱しているであろう敵たちに奇襲を仕掛けるために土埃がもうもうとしているうちに全員で飛び込んだ。


「オラァ! 腐れ魔族ども! 皆殺しにしてやりますよ、覚悟しなさい!」


 マリアは威勢のいい言葉と共に、魔王城の一階で左手に持ったワンドから強力な魔法をデタラメに撃ち、右手一本で持てるとは思えない大剣を軽々と振り回して、混乱している魔族たちを次々と消し飛ばしていった。


「なあ、お前は何もしないのか?」


 俺は特に活躍していない天使に訊ねた。コイツは強力な戦力なのに戦おうとしていない。


「私はマスターに『お二人を守れ』と指示されました。現在お二人に危険を及ぼす存在は確認出来ません」


 ああ、確かにマリアはやりたい放題魔族を殺しているが、魔族の方は突然ぶっ込まれたので混乱してまともに攻撃を出来ていない。時折マリアが偶然飛んできた魔法を剣ではじいているが、一発たりとも体に当たってはいない。


 確かに守れと言ったので、危険がないのに何から守ればいいのかということか。言葉って難しいものだな……


「もう一匹!」


 巨大なサイクロプスがワンドを持った左手からはじけ飛んだ電撃に撃たれて倒れている。多分死んでいるのだろうが、そちら側の敵を倒すときにマリアはもののついでとばかりに剣を死体に突き刺していた。本当に死んでいるか確認がしたかったのだろうか。


 俺の存在に気付いた一匹の犬顔の魔族がコールドブレスを吹いたが、俺が剣で弾く前に光の壁が出現してそれにブレスは止められた。


「やるじゃん」


 俺は天使にそう言って、犬顔に向けて剣を振り下ろした。さすがにマリアのように消し飛ばすことは出来なかったが、斜めに袈裟切りにして、真っ二つにし、その息の根を止めた。


 そして爆煙は晴れていき、魔族たちも敵が何処に居るのか認識したらしく、マリアと俺たちに襲いかかってきた。軽くあしらうマリアと、天使の補助付で俺は切り裂いていった。


 魔王がどのくらい頑丈なのかは知らないが、魔王城にいる魔族でも普通に倒せるだけの力があることは分かった。


 正直に言えばこの武器たちがどれほど強力にせよ、魔王城の中にいる魔族というエリートたちに攻撃が通るのかは分からなかった。


 しかしそれは俺の杞憂であり、魔族たちは案外弱かった。魔族の大半はマリアに向かって行き、そして切り伏せられたり焦げ跡にされたり、首を飛ばされたりしていた。


 しばし戦闘は続いたのだが、俺の方に魔族がほとんど来ないなと思っていたらよく観察するとマリアの方に向かわなかった魔族はこちらを見た瞬間光の中に消されていた。


「なあ、俺を守ってくれるのは嬉しいが、マリアのことはいいのか?」


 こんな事をするのは天使以外にいないので俺は質問した。


「マスターとお嬢様のお二方から優先するべき対象は判断しております。お嬢様は大量の加護付の装備をお持ちですので支援の必要を感じません。命じられるなら優先してお嬢様をお守りします」


「いや、お前が大丈夫だと判断したなら多分正しい、命令は変更無しだ」


 正直俺も命が惜しい、マリアは突っ込んでいって殺戮を楽しんでいるのでおそらく、自分の手で魔族を殺すことを楽しんでいるのだろう。天使が危険は無いといっているので俺や天使が手を貸すことを歓迎はしないだろうな。というわけで危険がない間は俺を優先して守ってもらうことにした。


「何事だ……まったく騒がしい……えっ……?」


 象の顔をした巨体の魔族がのしのしと入り口の異変に気付いたのかやって来た。


「あなたがこの場所のボスですか、いいですねえ、絶望させた上でくびり殺したくなるような顔をしています」


 マリアは魔族より邪悪そうな言葉を入ってそいつに襲いかかった。その象は長い鼻で飛びかかってきたマリアの斬撃を受けようとした。一応そこそこ上位なのだろう、消し飛ぶことはなかったが、その自慢の長い鼻にマリアの剣が水を切るように抵抗なく吸いこまれ切り落とされた。


 わなわなと震えている象野郎にマリアは笑顔で言う。


「さて、次は鼻以外を切りましょうかね!」


「ひぃ! た、助けてくれ! 私はこんなところで死にたくな……」


 その見苦しい命乞いを見たマリアは、口の端を歪めてにたりと笑い、その首を切り落とした。どうやら命乞いをするときの絶望顔を見たことで満足したのだろう、それ以上は無さそうだからか楽しそうに切り落とした。


 そして魔族は突然出てこなくなった、理由を考えてみたが、おそらくあの象がこの部署のトップだったからだろう、そりゃ一番強いと思っているやつが何の苦労もなく殺されたのを見れば戦う意志もなくなったのだろうな。


「案外拍子抜けですね、マイナーさん、これが魔王ってことはないですよね? さすがにこのレベルで魔王を名乗っていたなら失望しますよ?」


「武器が消えていないから魔王じゃないんだろ、それよりマリアが殺したやつがご丁寧にドアを開けて入ってきたからその先に進めばいいんじゃないか」


 そして俺たちは薄暗い城の中をドアの先にあった階段で上っていった。

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