第34話「魔王城にカチコミ」

「さて、魔王城についたので気付かれないように武器を召喚するぞ、『幸運』のサポートは頼む」


「了解! 最高に破壊力の高いものを出しましょう!」


 マリアはものすごく生き生きした顔でスキルを使用した。俺には謎の高揚心を感じるほどの強烈なサポートがか狩った。そこで俺は『採掘』を使用した。


 すると今まで見たこともない煌びやかな石がいくつも出てきた、これはものすごいものが出てくるような予感がした。


『ガチャを回します』


 スキルからの謎の神託と共に召喚陣が十個現れた、その全部が七色に輝いている。マリアのサポートがあってもここまでの幸運に恵まれたことはなかった。どうやら魔王城の側ということで、レアリティは高いものを用意してくれたらしい。


 そして召喚陣から出てきたものは、剣とワンド、スタッフにエリクサーといったこれまで出てきたレア物の総決算という豪華さだ。


 マリアは迷うことなく大きな剣を選んでそれを持ち、サブ武器としてワンドを一つ手に取った。俺は何の武器に使用か考えた末、奇抜なものは扱いが難しいだろうと判断してメイスを持ち上げた。地面にひびが入るほどの重さがあるのだが、何故か俺が持つと羽のように軽かった。威力が無いのではないかと不安になって軽く地面を叩いてみると、力をほとんど入れていないのに大きなくぼみが地面に出来た。理由は分からないが持っている分には重さを感じないが、きちんと重量物としての破壊力はあるらしい。どこから殴ってもいいので非常に扱いやすい。


「マイナーさん! この剣ってすごいですよ! こんなに大きいのに重くありませんし、切れ味もすごいです」


 試し切りを木に向かってしていたマリアは感激の声を上げた。最終決戦になりそうなのでスキルの方も随分とサービスしてくれたようだ。それともマリアのスキル補正が強力になったのだろうか? こんなものを出し放題になってしまえば治安がめちゃくちゃになりそうな威力だ。


 その時、ガチャもしていないのに何故か俺に神託が下った。


『ガチャ回数が天井に達しました、キャラクター確定で召喚を行います』


 その声と共に近くに召喚陣が現れた。それは見たことのない真っ白な光に包まれ、次第にその中から何かが出てきた。


「え? 私はスキルを使ってないんですが……マイナーさんが出したんですよね?」


 光の中から現れたのは人間のように見えた、しかし人間と明らかに違うのは、真っ白な綿の布よりさらに白く、僅かに発光をしている肌をした、瑠璃色の目をしたものだった。


 顔は人間の顔のように見えるが、それは形だけであり、目も鼻も口も凹凸こそあるものの、そこに眼球や鼻と口の穴は無かった。これは人間を模しているようだが明らかに人間ではない。そして魔導師用のローブを神々しくしたものを着ているが、その背中からは八枚の羽が左右に四枚ずつ開かれていた。まるで伝承の中の天使のようだ。いや、あるいは本物の天使を召喚してしまったのかもしれないと思った。


「マスター、私にご命令を」


 マスターというのが俺の事だというのは俺の前にひざまずいてそう言ったので分かった。明らかに俺より強いであろうものを召喚してしまったが、今さらどうしようも無いのでシンプルな命令を与えた。


「俺とマリアを死なないように守ってくれ、命令はそれだけだ」


「はい、命に代えてもお二人を守り抜くことをこの翼にかけて誓います」


 それを聞いて、暴走することはなさそうだと判断してようやく安心することが出来た。そして二人と一人? 人かどうかは分からないが、とにかく戦力が揃ったので残りの召喚武器たちは消えていった。泣いても笑ってもこれが最終決戦になるだろう。魔族対人間二人で始めた闘争の結果が目の前にある城の中で決まるわけだ。


「マリア、準備はいいな?」


「バッチリですよ! 私は魔王の寝首を掻こうなんてみみっちいことは言いません! 正々堂々殴り込んで魔王城の中を空っぽにしてやりましょう!」


 マリアはやる気満々、俺はもはや選択肢がないので覚悟を決めた、そしてこの天使っぽいやつは俺に従ってくれた。後は戦うのみだ。


「! 人間……だと!? ここまで来たというのか!? まあいい、魔王城に入れるわけにはいかん!」


 俺たちが派手に召喚をしたのに気付いたのか、城の横まで門番だった魔族がやって来た。どうやら向こうは戦うつもりらしい。この武器と面子を見ても戦意を喪失しないのは腐っても魔王城にいるということだろう。


 天使は何もしなかった、いや、天使かどうかは知らないけれど天使だと便宜的に名前を付けておこう。なぜなにもしないのか分からなかったのだが、そう疑問に思った数瞬後にマリアが屈強な魔族を恐ろしいほどの威力を持った火球をぶつけて蒸発させた。地面には真っ平らな焦げ後が残り、キラキラヒカルものが見えた。危険は無さそうなのでそれを拾い上げてみるとガラス玉だった。


 完全な球体ではないが、とにかく丸っこいガラスのようなものだった。


 これがなんなのかよく分からなかったので天使のところに持っていって見せた。向こうは目があるような形をしているが、ただの凹凸であり、そこにものを見る力があるのかどうかは知らないがそうしてやる方がわかりやすいと思った。


「なあ、これはなんだか分かるか?」


 天使にそう訊いてみると即座に返答が来た。


「それは地中の硝子質が高温によって溶けて集まったものです。超高温下に晒されたため発生したのだと思われます」


 淀みなく俺の疑問に答えてくれた天使に『ありがとう』と言って、今までの魔法ではそんな現象が起きたことはないので、おそらくマリアの魔力をワンドがとんでもないレベルに増幅したのだろう。


 今まで幾らかの魔導書を読んだことがあるが、火魔法の本に高名な魔導師が炎魔法を使った後の光景を書いていたが、その中にひとかけらもこのような現象が起きたとは書かれていなかった。


 つまり先ほどの魔法は今まで誰も到達したことのないところまでたどり着いたということだ。心強いと思うと同時に、この装備は魔王を倒したら……倒せたらの話だが……きちんと全て処分しておこうと思った。おそらくこんな武器があるなどと知られると争いの種になるだろう。


 きっと魔王を倒したら全て消えるだろうが、政争の道具にされないように気をつけよう。


「さて、それでは魔王城攻略を始めましょうか!」


 マリアは明るい声でそう言った、自分の武器に信用がおけたのだろう。そして俺たちは魔王城の正面に回って、金属製の重苦しい扉の前に立って武器を構えた。


 そうして、やや静かに人間対魔族の大決戦は始まった。

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