第31話「杖(物理特化)が出てきた」
今回のガチャでは武器が大量に出てきた、仲間がでてこないあたりおそらくレアリティが高いのだろう。武器だけでも十分戦えるので問題無いのだが、やはり強い仲間がいるのは心強いものだ。
そんな中、虹色の光から一本の杖が出てきた。魔術師用だろうか? 金属で出来たスタッフのように見える。
マリアはそれを手に取ってニヤリとした。
「マイナーさん! 私はこれが欲しいのですが構いませんか?」
「お前……魔法が使えたっけ?」
「使えませんよ」
はて、魔法が使えないのに杖を持つ意味とはなんだろうか? 俺は普通に仕えそうなナイフを手に取った。基本的に露払いはマリアがしてくれるし、俺が戦う必要はほとんど無い、時折打ち漏らした雑魚が寄ってきたときに倒すだけだ。
「なら何で杖なんて持つんだ?」
「ふっふっふ……それでは見せてあげます」
そう不敵に笑ったマリアは道の脇の木に向けて杖を振りかぶって思い切り振った。
轟音と共に木が消滅した、いや、よく見ると木のクズが浮遊しているので粉々になったのだろう。とにかく恐ろしい威力だった。
「この杖は魔法を使うための触媒ではなく単純にぶん殴るためのものです!」
「メイスみたいなもんか……」
どうやら相当物理が好きな魔導師のための装備なのかもしれない。そんな奇特なやつがいるのかという疑問もあるし、物理攻撃するなら素直に剣で良いんじゃないかと思うのだが、なんにでも需要はあるのだろう。
「さて、この調子でガンガン魔族を殴り殺していきますよ!」
血気盛んなマリアはそう言って歩き出した。俺もつられて歩くのだが、いきなりゴブリンが道の横から現れた。
「キーーーー!」
「雑魚に興味は無いんですよね……」
片手で杖を振ってゴブリンの頭が消し飛んだ。あの杖はかなり強力らしく、ゴブリンはグロテスクな死に方をしたと言うより、何かの拍子に頭をスッパリ切られたように綺麗に首から上が消えていた。
「ゴブリンとはいえ、結構な殺し方だな」
俺がそう言うと、マリアは平然と答えた。
「雑魚なんですよ、そのくらいできて当然です。私のスキルとマイナーさんのスキルが組み合わさればもっとすごい武器だって出せるはずですよ」
「あんまり武器の性能に頼り過ぎない方がいいと思うんだがな……」
そんなことを言ったところで魔族領で甘えなど許されるはずもないので戦う以外の選択は出来ない。話し合いの通じる相手だったとしても、マリアは相手が魔族と言うだけで殺すに十分だと考えているようだ。ここから先も戦い以外のことはあまり無いだろうな。
「とりあえず飯にするか、さっきのガチャで出てきた干し肉と干し豆を回収しておいたんだ」
「気が利きますね」
そんなわけで俺たちはしばしの休息を取った。戦い続けるのは仕方ないが、腹は減るものだ。ガチャでも食料は豪勢なものが出るときはあるが、人間の領地にいるならともかく、匂いに釣られて魔族に襲われてもかなわないのでこうした簡素な食事になってしまう。
とはいえ、ガチャで出たものだけあって、豆と肉を食べるだけでしばらくの間腹が減らないという、驚きの効果がついている。
「あまり美味しくはないですね」
「保存食に味を求めるなよ……」
基本的に保存食なんて塩漬けにせよ酢漬けにせよ、味は度外視してとにかく長い期間保存出来ることを目的にしている。そんなものに味を求めるのが無理というものだ。
「確かにゴブリンの肉よりはマシですが……」
ふとそこで思った。豆は豆なんだが、肉の種類が分からない。有毒な豆というわけでもないので安心して食べられるのだが、干し肉は一体何の肉なのか分からない。もしかしたらあまり食べたくない肉の可能性も……いや、こういう考え方はやめよう、そんなことを突き詰めると本当にゴブリンの肉を食べる羽目になりかねない。多分何か食用の動物の肉だろう。
そう思い込むことにして口の中に肉を押し込んだ。この事に関して深く考えることはやめよう。知らない方がいいことはこの世にあるからな。
「ふぅ……お腹いっぱいになるあたりはショボくてもレアアイテムですね。なかなか良いものじゃないですか」
「そうだな、それじゃ先に進むか」
俺たちは腰掛けていた岩から立ち上がり、魔族領のさらに奥深くへと進んでいった。
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