第26話「魔族の村にて、慈悲は無い」

「ハッハハハワハハハ! 愉快です! 愉悦です! この武器は実に素晴らしい!」


 そう言ってマリアが振り回しているのは、振ったときに閃光が走って前方にいる魔族を消し飛ばしていく。家だの設備だのといったものはまったく関係なく、平等に破壊と殺戮を楽しんでいる。


 楽しそうにしているので何よりだ。魔族領に入ってからこの前町を滅ぼした後にもう一度特殊な石でガチャを回したのだが、なんだかとんでもないものが出てきたような気がする。


 剣を振ってその先端から出た光線が当たったところを爆発させて砕いて破壊をしていく。差別も何もなく綺麗に吹き飛ばしていく。


 しかしこの恐ろしい武器が魔族の手に渡ったらと思うとゾッとするな、ありがたいことに現在はマリアが持っており、この村を消し飛ばした後は魔族の手に渡ることなく消えてくれる。


 そしてもう一つの利点は、マリアがそれを剣として使わず、光線の出る大砲感覚で吹き飛ばしていっていることだろう。おかげさまで見るに堪えない死体を見る必要が無い、魔族とはいえ死体が見えないことは大変心理的に楽だ。


 まあまあひどい悲鳴が聞こえては来るのだが、それを聞かないように気をつけていればいい。しかし魔族という連中はどうしてこうもおぞましい叫び声を上げるんだ? しかしだからこそ、死んでいるのが人間ではないことを確信出来て少しばかり安心する。


 時折人間同士でも争ったりしているが、どうにも気が滅入るような話になってしまうので、人間が死なない魔族を殺戮するのは精神的に気が楽だ。


「ヒャッハア! 魔族が一丁前にコミュニティなんて作ってるんじゃねーですよ! お前らに生きる価値など認めませんよ!」


 マリアは過激だなあ……いつものことなのだが、いくら相手が魔族だからといって気軽に殺せる……というか好き好んで殺せるマリアのメンタルは大丈夫なのだろうか?


「キエエエエエエエエエエエ」


「グゲエエエエエエエエエエエ」


 悲鳴が上がっているようなので俺は一言マリアに言うことにした。


「生き残りを出すなよ?」


「私を甘く見ないで欲しいですね、最近私を見ただけで逃げ出す魔族だって普通に居るんですよ? まあ逃げようと殺すわけですが」


 徹底したやつだな。まあエリクサーまでガチャから出てきたし、危険なことはないだろう。せいぜい恨みの連鎖を繋げないためにしっかりと殺しておいて欲しいものだ。


「見逃しがあると困るからな、念のためだ」


「やれやれ、マイナーさんも心配性ですね」


 そう言ったマリアは剣を横に薙いで、前方にあるものを真横にまとめて切り裂いた。僅かに遅れて爆発し、その後にはただの平地が残るのみだった。


 それでも地面から手や顔が出ているとマリアは念入りに一つ一つに剣を刺していった。全てを完全に殺し終えてから俺の方を振り向く。


「完璧でしょう?」


「そうだな……跡形もないな」


 ここは魔族の死体が転がる、かつて村だった場所。そしてもう既に平原となってしまった場所だ。多分王国軍だってここまで念入りに殺したりはしないだろう、そこまでやらせると兵士の士気が下がりそうだ。そんな嫌気のさしそうなことを平気で行うマリアはもはや戦う以外のことをしたくないのだろう、死体になった魔族には一切興味を示していなかった。


「一発で吹き飛ぶのはやはり便利ですね、死体を切り刻むのは面倒なんですよ、好きな作業ではありますがね」


 常軌を逸した発言ではないだろうか? 魔族を殺すのを当然としているやつからすれば驚くようなことではないのかもしれない。よくわからないが、魔族を討伐しているのだからそれは誹られるようなことではないはずだ、せいぜい魔族から恨みを買う程度だが、魔族は人間と対立しているし、向こうも殺す気満々でかかってくるのでこちらとしても躊躇する必要が無い。


 マリアからすれば一撃で魔族を跡形もなく吹き飛ばせる今の剣は、戦闘スタイルにピッタリ合う素晴らしい武器なのだろう。魔族からすればたまったものではないが、生憎と俺は魔族ではないんでな、せいぜい俺たちの自己満足の犠牲になって貰うとしよう。


「こんな事を訊くのもなんだが……楽しいか? なんだか心底楽しそうにしているようだが……」


「楽しいに決まっているじゃないですか! 殺すべき相手をぶっ殺せるんですよ! これ以上の快感はないですよ!」


 すさまじい理論だとは思うが、勢いだけで納得してしまった。人は仇と言うだけでここまで憎むことが出来るのだろうか? そこまでいくともはや人間をやめつつあるのではないかと思ってしまう。俺がその人間の道を踏み外す手伝いをしたかと思うと少しだけ申し訳ない気もする。しかし俺が何もしなければお互い死んでいた身なのでそれを否定することは出来ない。


 ボーナスタイムの如くマリアは焼け野原状態の村にバシバシと剣から出る光線を浴びせては爆発させている。端から見ればまるで畑を耕しているように見えるかもしれないほど大地をひっくり返していた。


「まあ……マリアが満足しているならそれでいいよ」


 俺は全てを諦めて、暴虐の限りを尽くされている村を放置することにした。もはや全てが滅んでいるだろうし、それを破壊することでマリアの満足感が満たされるなら十分意味のあることだろう。


 ここには魔族の子供だっていた、それを躊躇することなく殺すことだって時には必要なことだろう。次世代への憎しみの芽は根元から抜き去っておかねばならない。きれい事を並べて助けてやるのは簡単だが、その結果大量の憎しみを生むことになる可能性がある。そんなことを心配するくらいなら、始めから自分たちが責任を持って殺した方が早いし確実だ。


 耕されている町をぼんやりと眺めながら、人間も魔族も等しく残酷に慣れるものだなと思う。種族が違えば殺し合うことも当たり前だし、それを気にするべきではないだろう。


 そんな益体もないことを考えていると俺の護身用の剣が光り始めた、どうやらこの村の魔族は完全に消え去ったようだ。役目を終えると消えてくれるので不便かもしれないが後始末が楽でいい。こんな恐ろしい武器をどう処分したものかと考えるくらいなら消えてしまった方がいいのだろう。


「あーあ……もうおしまいですか。結構楽しかったんですけどねえ……」


 マリアの持っている剣も光の粒子に変わっていた。


「随分あっさりしてるな。もっと暴れたいのかと思ったが?」


「私は殺すことに意味を感じているのであって、命の無いものを破壊したって楽しくないじゃないですか。私が破壊するのは魔族がいる可能性のある建物だけですよ」


 割り切っているというかなんというか……コイツはあんまり野放しにしない方がいいのかもな。とはいえスキルが俺のものと組み合わせないと役に立つことがあまり無いので、それほど脅威に感じることもないか。


「さて、次の拠点に行くか?」


「ですね、ここには私のするべきことがもう無いようですね」


 この際、するべきことが魔族の無尽蔵な殺戮であることは意図的に目をそらして、俺たちは町の残骸から食物などを回収して先に進むことにした。

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