第25話「魔族にとっての天敵」

「でありゃあああああああ!」


 マリアはガチャから出てきた漆黒の剣で魔族領を突き進んでいた。結局、ガチャで出てきたものには武器も防具もあったが、ひたすら相手を殺すことを目的にしているマリアとしては防具は不要ということだろう。


 とはいえ防具は必要だろうと思ったのだが、幸いなことにあの剣には相手の生命力を吸い取る効果もあるらしく傷を負った側から回復していき、回復量が傷を負うのを追い越して実質ノーダメージだった。


 いま戦っているのは野良のゴブリン、下級とはいえ魔族ということで魔族領にいれば殺されることはないだろうと思っていたのだろうか、ゴブリンにそんな知恵があったらそう考えていたのだろう。しかしマリアによって全てはひっくり返っている。


 一応ホブゴブリンなどもいるのだが、マリアの倍くらいの大きさのホブゴブリンの腹を横一線に切り裂いていたので普通のゴブリンと大して変わらなかった。


「魔族は皆死になさい」


 喜々として細い剣をブンブン振って、そのたびにゴブリンの肉片が飛び散っていく。別にそれは構わないのだが、マリアは碌でもないことを学習したのか、倒すのに余裕がある相手なら初手で致命傷を負わせず四肢を一本一本切り落とす方針にしている。その力が人間に向けられたらというのはあまりに恐ろしい想像だ。


「程々にしておけよー!」


「はーい」


 程々で済むはずもないのだが、死体を傷つけるメリットがマリアの自己満足くらいしか思いつかないので無駄なことはやめておいた方がいい。


 俺たちの歩いて行く後には魔族の死体が転がっている。そこに差別はなく、まあ男女の概念が魔族にもあるのかは知らないが、老若男女問わず平等に死体となって残っていく。


 道を死体で舗装しながら俺たちは進んでいく。魔族からすれば悪夢のような光景だろうが、先に仕掛けてきたのは向こうだ。やられたならやり返して悪いということはないだろう。


 残念ながら俺も聖人君子ではないので、この魔族の死体の山が半分くらいは俺のせいかになるんだったら悪くないとも思う。反感を買ったとしたら……名字を明かして実家のせいにでもすればいいだろう。連中が俺を追い出したから始まった話なのだから責任くらいは取って貰わないと割に合わない。


「マイナーさん、悪い顔をしていますね」


「余計なお世話だ、顔が悪いの親譲りだよ」


「いえ、そうではなく悪いことを考えているような顔をしていたのですが」


 そんなにわかりやすい顔をしていただろうか? 人間の心理などそう簡単に分かりっこないのにな、時折こういった勘のいい奴がいるから困る。俺は人間の直感というものをきちんと評価している。初対面でも怪しいかどうかなどというものはあらかた分かるものだ、そして結構その予想は当たってしまう、そんなものだろう。


「それにしても、随分と殺しましたね。魔族の中の何割を始末出来ましたかね?」


「大した量でもないだろう、魔族は長命だし数だけはそこそこ多いからな」


「それじゃあ根絶やしにできないじゃないですか!」


 怒り混じりの声を上げるマリアに俺は現実を教えた。人間と争いが絶えないのに数だけは減らないのはどうしてなんだろうな。


 根絶やしは随分難しいが方法が無いわけではないがなあ……


「一応魔王が死んだら魔王から魔力を貰っている魔族はほとんど何の力も無くなるぞ」


 魔王を倒すなんて考えた奴はいなかったので、現実的とは判断されなかったのだろう。魔族の力の源が魔王であるのは割と有名だ。


 マリアはそれを聞いてニヤリと笑った。これだけ魔族を殺したのだから当然魔王に出会ったら殺し合うことになるだろうな。


 そんなことを考えつつ、飛びかかってきたスライムを切り裂く。この手の下等種は魔力の供給が断たれればそれで死んでしまうような生き物だ。


「つまり魔族を皆殺しにしたければ魔王を倒せということですね!」


 喜々として言うマリア、魔王を倒すより雑魚を狩り尽す方が簡単なのではないかと思うが、魔族領まで突っ込んできて今さら引き下がれないな。さすがにこれだけ殺して魔族の王である魔王に許されるとは思えない。魔王だって皆殺しを宣言して実行しているようなやつを許すのは部下が絶対に許さないだろう。


「仕方ない話だが魔王と戦うしかないな……覚悟はしておけよ」


「おっと、マイナーさん足元にワームの魔物がいますよ」


 サクッと地面から顔を出そうとしていたワームを突き刺して殺すマリア。コイツはどこまでいっても皆殺しにする以外の選択肢は無いらしい。仕方のないことではあるし、第二第三のマリアのようなバーサーカーを出さないためにも魔族は滅ぼさないとならないな。


「お前、こういう魔物も気軽に倒すんだな」


 気持ちの悪い虫の魔物を平気な顔で剣で潰したマリアにそう言った。


「おかしいですか? ものすごく簡単じゃないですか、こんなチョロい雑魚相手に負けるわけが無いでしょう」


「そういう意味じゃなくてだな……気持ち悪かったりしないのかって聞いてるんだよ」


 俺の言葉に対し平然としながらマリアは言う。


「何を今さら、一体何匹の魔族の返り血を浴びてきたと思っているんですか? 今さら虫けらの一匹くらい気にするようなことではないでしょう」


 それもそうだなと思った。装備品の効果でサクサク倒していっているし、そのくらいの心の強さがあればワームの一匹くらいどうということはないな。俺は気持ち悪いと思うが、マリアからすれば今までの魔族の血と大して変わらないものなのだろう。


 草原を歩いていると魔族領に来たような気はまるでしないのだが、時折出てくるそこそこ強い魔物と、時折マリアに滅ぼされた数個の魔族の集落がここは魔族領だと主張している。


 後ろの方から血の匂いがしたので、俺は軽く左に寄った。瞬間、俺のいた場所に狼の魔物がマリアの剣で串刺しにされていた。


「マイナーさん、なかなか慣れてきましたね」


 マリアもなかなか実力はあるじゃないか。俺の感覚は装備品のおかげも大いにあるんだろうがな。


「しかしこの狼、首輪がついていますね……」


 マリアが面倒くさそうな顔をして死体を見ていた。


「ペットか……」


 つまりは魔族の集落が近いということだ。マリアは非常に悪い笑みを浮かべて笑っていた。やれやれ、また一つ魔族の住居が潰れるのか。同情する気は全く無いが面倒なことになるな。

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