第24話「魔族を訊ねて幾日か」

「よっしゃああああああああ! 獲物発見! 死ねえええええええええい」


「随分生き生きしているな……」


 俺はガチャで出した武器で暴れたい放題をしているマリアを見てそうこぼした。俺たちは魔族の住んでいる地域に入って数日間歩いた。その結果、まりあがいくつかの村、あるいは町を滅ぼした。『幸運』スキルはマリアがやる気になったおかげだろうか、かなり強力な武器をポンポンと生み出すように俺のガチャを変えていた。


 現在マリアが持っている武器は、持ち手から眩しいほど高温の炎が噴き出す剣だ。それを使って魔族たちを焼き尽くしている。焼き尽くすにしても足や手からじわじわと動けないように焼いていく必要は無いだろうと思うのだが自己満足は出来るのだろう。


「ぎゃあああああああ!!」


 また魔族の悲鳴が一つ上がった。マリアは非常に楽しそうに魔族を殺して回っている。殺した相手の仲間が自分のように人間に恨みを抱くのは怖くないかと訊いたことがある。マリアはキョトンとした顔をして『根絶やしにすれば恨む魔族はいないでしょう?』とそんなことを訊いた俺の方がおかしいかのように言ってのけた。


 先ほどから魔族の悲鳴は断続的に上がっているのだが、俺はもはや聞くのを諦めた。さっきから魔族の肉が焼ける不快な匂いが漂ってきているのだが、魔族特有の体なのかその匂いを嗅ぎ続けてしばらくすると鼻が麻痺してしまった。多分匂いは変わらず漂っているのだろうが、それを感じる必要が無いのは幸せなことだと思う。


 しかし魔族とはいえ聴覚は麻痺させてくれないらしく、マリアの高笑いと魔族の断末魔の叫びは聞こえ続けている。聞こえているはずなのだが俺の頭が『理解しない方がいい』と判断したのだろう、途中からまったく気にならなくなってしまった。人道的にどうなのだろうと思うが、相手は魔族なので人間ルールは適用されない、そういうことにしておこう。


「助けて……助けてええええええええええええ!」


 知らんがな。俺としては魔族を討伐すれば名声も手に入るわけでマリアを止める理由は無い。


「マリア! 禍根を残すなよ!」


「もちろんですとも!」


 当然だが殲滅しろという意味である。魔族が生き残っていてはそれが復讐に動く可能性が残ってしまう。綺麗に鏖殺しておかないと後で何があるか分かったものじゃない。


 それからしばしすると、剣が光の粒子になって消えたのでアイテムが役目を果たしたことが分かった。要するに倒すべき魔族を総て倒したと言うことである、便利だな。


「マイナーさん、結構な数の首を取りましたよ! 褒めてください!」


「偉い偉い、よく頑張ったな」


 俺は適当に褒めておいた。こんな適当な言葉で済ませたものの、マリアは非常に満足げにしていた。コイツは魔族と戦えれば満足なんだな……


「じゃあ次の町を滅ぼすための武器をお願いしますね!」


「治療薬とかは必要無いのか?」


 怪我の一つもせずに倒したのだろうか? 魔族領に住んでいる相手に傷一つ負わずに倒すのは難しいと思うのだが……マリアを見てみるとつやつやした肌に赤くなった傷は一切見えなかった。


「必要そうに見えますか?」


「いや……要らんな」


『採掘』を使用します。


 そこで出てきた石は真っ黒の塊であり、魔族領に入ってからまったく変わっていない。魔族の影響だろうか、採掘される石も変化していた。


 そしてガチャで出てくる武器もそれに合わせたのか強力になっていた。


『ガチャ』を回します。


 当然のように虹色の光の玉が十個現れる。マリアの『幸運』に頼っているとはいえここまでの引きの良さは滅多に無かったはずなのだが、魔族領に来てから途端に運勢が上がっている。


 そしていかにもな聖剣だったり闇属性の剣だったり、業物であることが一目で分かるものが大量に出てきた。それをマリアは面白いおもちゃでももらったように剣を手に取っては振って、その剣が使いやすいかどうかを確認していた。


 その間に俺は再び『採掘』を使用して掘りだした石でアイテムを出していた。当然の如くエリクサーや完全回復薬が出てくる、多分売却すれば一財産になるであろう品々だ。


 一応出しておいたが、今のところマリアが一つでも怪我をしたことはないので完全に保険として出している。アイテムには固形食料モデルのだが、魔族領に入ってからその品質がとても上がった。おかげでその辺の魔族を狩って食べるような真似をする必要がないのは非常にありがたい。


「マイナーさん! 固形食料のレモン味を貰ってもいいですか?」


「いいぞ、俺は野菜味にするか……」


「やったあ!」


 こうして魔族の死体の山を背後に遠足気分で固形食料にかじりついた。味がいいだけでなく、一つ食べれば満腹になる謎技術のおかげで重い食料を携行する必要が無い。


 俺は野菜の甘みが感じられる固形食料を食べると、嗅覚の麻痺が緩和されたのだろう、なんだか魔族の死体から漂う匂いが感じられた。しかし固形食料の味はいいし、ガチャ特有の効果だろうか? 不思議なことに食べている間は食欲が失せる匂いも気にならない狩った。


 マリアの方を見るとじっくり味わって食べているのだが、かなりの魔族を血祭りに上げた後で、よくモグモグと美味しそうに食事が出来るものだと感心してしまう。


「どうかしましたか? 毒攻撃を食らったような顔をして?」


「いや、なんでもない」


 マリアを好奇心たっぷりの目で見ていたら気付かれてしまった。それにしてもどこからあの食欲が出てくるのかはよく分からない。なんなら魔族を倒したので興奮して食欲が増しているのではないかとさえ思う。


 しかし毒を受けた顔とはどんな顔なのだろうか? 俺に顔が紫色にうっ血していたらそんな風に受け取るだろうか? いや、それは普通に首が絞まったときになる顔色かな。


 なんとなく自分の顔色が様々な色に変わっていく様を想像してゲンナリした。


「お! マイナーさん、料理も出せるんですね!」


「料理まで出てくるようになったか……」


 いよいよガチャだけで生活していけそうな程にラインナップが増えたな。スキルは使えば使うだけ上達するとは言うが、こうして召喚出来るバリエーションが増えるとはなんとも奇妙だ。


 いや、普通の召喚魔法ならより強い聖獣などを呼び出せるようになるので分かるのだが、出てくるものに食事が増えるなんて召喚魔法はとんと聞いたことがない。


 出てきたのはオムレツだった。魔族領では鶏など飼っている家庭が無いので略奪するくらいしか卵を得る手段がないが、コカトリスの卵はある。怖くて調理したいと思ったことはないが、マリアは剣の強さに任せてやりたい放題殺していた。


「おいしーですよ! 優秀なスキルを持った相棒がいると助かりますね」


 相棒ね……俺は魔族を全滅させようなどと題逸れたことは考えていなかったのだが、いつの間にか同類ということにされてしまった。


 もっとも、マリアの隣でこれだけ魔族が死んでいるのだから魔族が許すとは思えないのでどっちかが死にきるまで戦うしかないな。


「どんな味がするんだ? オムレツは食べたことがあるがスキルで出てきたものなんて食べたことがない」


「ん~……そうですね、あえてたとえるなら食べたときに魔族を殺したときと同じくらい気持ちよくなれる感じです」


 うん、微塵も参考にならない意見だな! お前が魔族を殺したときにどれほどの快感を得ているのか、そっちの方が気になるくらいだよ。


 さっぱり参考にならないマリアの言葉を聞いてから、魔族領に入ってから戦いと戦いの間に入る僅かばかりの休息を味わった。本当に美味しそうに食べているので俺にも一口と言いたくなったが、俺は魔族を殺してもほとんど作業感のみで快感など得られないのでやめておいた。


 多分おいしいのだろうが、マリアが魔族を一匹殺す度にそんな快感を得ていると思うと薄ら寒くなる。


 モグモグしていたマリアがオムレツを食べ終えたので、一番重要な装備品のガチャを回すことにした。まずはガチャ石の採掘だが……


『採掘』を使用します。


 そして地面から石が生えてくるわけだが、黒くて鈍く輝く石が出てくる。魔族領に入ってからというものガチャ石に鮮やかな色味は消え、魔族の影響を受けたのかこんな石ばかりが出てくるようになってきた。今では完全にこの黒光りする石しか出てこない。


『装備ガチャを使用します』


 光の玉が十個現れる。虹色の光でありハイレアリティというやつなのだろう。かなり強力な武器が手に入ることは確定したようなものだが、排出されるものは運次第なのでマリアの幸運スキルに頼るしかない。


 これは魔族領に入ってしまうとマリアを協力しないという選択肢が奪われたことを意味する。クズアイテムばかり出てくるガチャではこの先生き残れないし、マリアもガチャ武器無しではあっという間に殺されてしまうだろう。一蓮托生というやつだ。


 そして何度目になったかもよく覚えていないガチャの結果が召喚されてくるのだった。

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