第22話「登場! 魔王軍幹部インフェルノ」

 阿鼻叫喚状態の現場を放置している魔王軍だが、よく見ると逃げようとしている魔族にマリアが積極的に追い打ちをかけていた。こちらを狙ってくる敵はケルベロスが噛みちぎっているので俺の存在理由が不明だった。


「アイツだけでも魔王軍は倒せそうだな」俺は炎魔法を切り裂いて消したマリアを見て言った。


「主も必要ですよ、我が存在しているためには主の存在が不可欠ですから」


「そういうもんかねえ……しっかし暇だよなあ」


 マリアが一人で暴れ尽くしているので俺がすることがない。時折こちらに向かってくる魔族はケルベロスが食いちぎってそれを抜けてきたやつをペシッと倒すだけだ、武器が強すぎる。


 ガチャで出てきた武器たちはかなり優秀で、昔はゴブリン一匹狩るのにも苦労していたのに、ガチャ武器を手に取ると体が軽くなり、魔物の体をパンの如くするっと切り裂ける。


 いくらマリアの幸運スキルのサポートがあるとは言え、このスキルをむやみやたらにひけらかさない方がいいのかもしれないな。


 そんなことを考えていると、大柄な魔族が遙か向こうから勢いよくやって来た。


 ゴゴゴゴゴゴ……


「貴様ら! 人間ごときにやられおって! 魔族の恥だと思わんのか!」


 その言葉と共にいかにも偉そうな魔族がやって来た……かと思うとマリアと戦っていた魔族を消し飛ばした。


「人間に苦戦するような部下は必要無い」


 わぁ、厳しいやつだなあ……しかもマリアのやつを怒らせてるなあ。アレはいい感じに痛めつけられるおもちゃを取り上げられたときの顔だ、あーあ、マリアを切れさせちゃったな……知らないっと……


「貴様が我が配下を襲った者か」


 そいつがマリアに質問をしていた、俺はその時マリアがいつ斬りかかるのか不安になりながらそれを見ていた。


「だったらどうだというんですかね? 復讐でもしやがるつもりですか? 私はいつだって受けて立ってボコボコにして生きているのを後悔させられますよ」


 ボコボコなんて安っぽい表現では及びもつかないほどに滅茶苦茶にする奴が何を言っているのやら……魔族討伐が趣味のようなものだろうし、多分相手が襲いかかってこなくても、魔族というだけで倒すには十分足る相手なのだろう。


 一触即発かと思いきや、魔族の方が語り出した。


「そんなつもりは無い、私の部下に貴様に負けるような軟弱者は必要無い。貴様、名は?」


「マリアですよ、つーか自分から名乗るべきじゃないですか? 格下から名乗らないとか人を舐めるなって話ですよ」


 言葉の節々に棘が見えて触るのも辛そうなくらいとげとげしい会話だ。あの中に入れと言われたら無言でたたずむことになる結果が安易に予想出来る。


「私はインフェルノ、この町の主だ」


「ほう……魔族のくせに人間様の上に立とうとはいい根性していますね、そんなに死にたいんですか、いいでしょうこの世界から消してあげましょう」


 インフェルノ相手に調子に乗っているマリア、とても負けるつもりはなさそうだ。殺し合いに今にも発展しそうな雰囲気になっている。


 険悪な雰囲気は加速していき、いよいよマリアはインフェルノと名乗ったこの町のボスに斬りかかった。


「死にやがりなさいいいいいいい!」


「人間ごときが我にたてつこうなどと……」


 マリアの斬撃はぬるりとインフェルノの持っていた剣を切った。スパッと切られてやつはあっけにとられている、ここで致命傷を与えることも出来るのだろうがソレをやらないのがマリアというやつだ。


 ポカンとしているインフェルノの手首を切り落とし、グシャリと踏みつける。


「どうしました? 本調子ではないんですか? そのクソ雑魚ッぷりでまさか本気で魔王軍の幹部とか冗談は言いませんよね? 弱すぎますよ、あなた」


「クソがああああああああああ!!!!」


 インフェルノは手を再生し、腕に力を入れてマリアに殴りかかった。しかし当然だが剣を持っていると素手より強い。


 シュッ


 一瞬の光線の後、インフェルノの腕はちぎれかけになっていた。いくら何でも相手がわるかったな。


「主、我々は何をすればいいのでしょう?」


 ケルベロスも困惑気味にそんなことを訊いてくる。k


「まあいいだろ、こうして雑魚をプチプチ潰していればいいんじゃないか?」


「ですな」


 俺とケルベロスは僅かに生き残った魔王軍の下等魔族をペシペシ潰していた。


「ヒャッハあああああああ! 魔族は皆殺しですよ!」


「死んでる相手を煽るのは無駄だぞ」


 死体さえ切り刻むのが趣味なマリアにそう言っておく、まあ聞きゃあしないんだろうがオーバーキルをする必要は無いだろう。


「貴様ら! 我を舐めおって! よかろう、本気でかかってこい」


 すっかり存在を忘れていたインフェルノさんの筋肉が増大し、あっという間にドラゴンになった、それが真の姿か。しかしマリアは虫が羽化した程度の微笑ましい視線を向けて剣を振るう。


 ザクッ ザクッ ズシャ


 あっという間に四肢を切り落とされたインフェルノ、なんのために手足を復元したんだコイツ……


 そして最後のあがきとばかりに炎のブレスを吹いてきたが、軽く切り払われてようやく絶望的な顔になった。


「来るな! 来るな! 来るなアアアア! 化け物めええええ」


「化け物が人を化け物呼ばわりしないでくれますかね」


 ザクッ


 今度はインフェルノさんの腹に剣を突き立てるマリア、容赦ないにも程があるだろう、やりたい放題じゃないか、情け容赦とか……ないんですかね?


「グゲええええええええええええ! や……やめ……ごぷ」


 おっと、そろそろ致命傷かな。


「マリアー、さっさと苦しまないようにしめてやれよ」


「嫌です、コイツの悲鳴は実に心地よいんですよ、そう簡単に死なせるわけがないでしょう」


 そう言うと剣をねじる、腹の中で暴れる剣にインフェルノは苦痛に顔を歪めた。そして汚い悲鳴を上げているのだが、その中でマリアは愉悦に浸る顔をしていたので何を言っても無駄だろう。


 そろそろ死んだかな? そう考えているとケルベロスが俺の方を向いて言った。


「主、我はあのインフェルノとか言うドラゴンが気の毒になってきました」


「諦めろ、アイツが人間じゃないからああなるのは必然だったんだ、人間じゃないってだけでマリアにとっては殺すに足る相手なんだよ」


 ケルベロスは渋い顔をして目の前で繰り広げられる虐殺ショウを楽しんでいるマリアを見ていた。俺はいい加減トドメを刺してやれと思いながら足元の小物をペシッと潰した。


「マイナーさん! 見てください! コイツクビだけになっても生きてますよ!」


 インフェルノの首をスパッと切り落としたマリアが首を掲げて楽しそうに言う。手にしている首には苦悶の表情が浮かんでいた。


「マリア、そろそろひと思いに殺してやれよ」


「マイナーさんは情に厚すぎますよ、こんなゴミは徹底的に痛めつけるのが正解なんですよ、この町の状態を見てもまだそんなことが言えますか?」


 周囲には廃墟が広がっている、かつては人が住んでいたであろう場所だ。それが破壊し尽くされ、人間が存在していない状態にまでなっている、これを見過ごすのもな……


「分かった……好きにしろ」


 俺がそう言うとインフェルノの表情が恐ろしく歪んだような気がした。まあ、天罰ってやつだろうな。


 一方マリアの方は歪んだ笑みを浮かべながらインフェルノの首を切り刻んでいった。ドラゴンなのかもしれないが、ガチャ武器には勝てないようだ。


 しばし肉を刻む音が聞こえた後で町から魔物が逃げ出していった。


「いやースッキリしました! 魔族は殲滅するに限りますね!」


「お前……また派手にやったなあ……」


 俺は血まみれのマリアを見て言う。もちろん付着している血にマリアのものは含まれていない、全てが敵の返り血だ。


「洗ってこい」


 俺は町の井戸の方を指さして言った。そしてそれを覗かないようにケルベロスと雑談をして時間を潰したのだった。

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