第19話「盗賊と戦った」

 その日はうららかな午後を道ばたの草原で寝転んで休んでいた。こんな時に面倒なことが無いといいのだが……おっと、こんな事を言っていると厄介ごとが回ってくるのがオチだったな。


「平和ですね……」


「そうだな、魔王軍が人間と戦ってるとは思えんな」


「ですねえ、ところで町で買っておいた干し肉はいかがですか?」


「わるいな、もらうよ」


 俺は干し肉をかじりながら平和を享受する。魔族相手だろうと好き好んで戦いたくはない、俺たちの実力さえ認めてもらえれば『俺は』魔王軍と戦わなくてもいいと思っている。マリアはまったく違う考えのようだがな。


「マイナーさん」


「なんだ?」


「背後の森から悪意のある気配がこちらに向かってきていますよ、潰しましょうか」


「また魔族かよ……懲りない連中だな」


 あきれながら俺は石を採掘してアイテムガチャを回す。ポーションが大量に出てきたので多少の怪我は問題無い。


「おい! お前ら! 命が惜しかったら有り金全て置いて行け……ウヴォア!」


 おっと、人間だったか。やって来た賊は話し終える前にブロードソードの腹でぶん殴られて遠くの方まで吹っ飛んでいった。


「容赦ないなあ……」


「悪党に容赦なんてしてたらいつまで経っても悪党のままですよ?」


 マリアの断言にそれもそうだなと思った俺は成り行きに任せることにした。マリアは無効を敵だと判断したようだし、そうなってしまえばもはや行き着く先は一つしかない。


「バカヤロウ! ひょろっちいガキになめられてんじゃねえよ!」


「じゃあ親方がやってくださいよ! 俺たちは死にたくないですよ!」


「しょうがねえな……おいガキ共……おっと、嬢ちゃんの方は上玉じゃねえか、おい! 男の方は殺して構わん、こちらは奴隷商に売るぞ、傷を付けるなよ」


 親方とやらがリーダーなのだろう。しかしマリアを舐めすぎだ。俺が『手加減しろよ』という前に親方の体は両断されていた。


「ヒッ!」


「逃がしませんよ!」


 マリアは一切容赦なく、自分に触れようとした人間を片っ端から切り伏せていった。もはや死ぬためだけに賊は存在していた。マリアが好き放題順番を決めて切っていた。森の中なので長身の剣では気に引っかかりそうだが、武器がいいせいで気を含めてまとめてぶった切っていた。


「おおー……人間って簡単に切れるんだな」


「マイナーさんの武器のおかげですよ!」


「それは自分のスキルのおかげってことにしてもいいんだぞ?」


 実際『幸運』が無ければガチャなんてゴミしか出ないからな。


 そこで盗賊の残りの一人が悲鳴を上げた。


「た……助けて……死にたくな……」


「うるさいですねえ、死になさい」


 マリアが首をスパッととばして黙らせる。賊が全て物言わぬ死体になって討伐完了だ。ちなみに命乞いをしてきた相手を殺した理由は『残しておくと遺恨が残りますから』だそうだ。容赦ないな……


「盗賊はこれで全部か? 生き残りはいないだろうな?」


 俺がそう訊くと、マリアは『念のためです』といいながら死体にグサッとブロードソードを刺していった。全員が刺されても無反応だったのできちんと死んでいるのだろう。


「問題無いみたいですね!」


「死体切りは楽しいか?」


「私に仇なすものは魔族だろうが人間だろうが殺しますよ、まあ人間なら死体の形が残る程度にしますがね」


 マリアの憎しみは徹底していた。正気なのだろうかと考えたが、目の前で両親を殺されて正気でいられる方が珍しいんじゃないかと思って深く突っ込むことはやめておいた。


「さて、盗賊も倒したし先に進むか」


「ですね、私も死体の近くで野営をする気にはなれないですしね」


 一応死体への配慮はあるんだな……人間らしいと言うかなんというか、


「ところでマイナーさん」


 なんだよ?


「人間の死体って食べられるんですかね?」


 ゾクリと背筋に冷たいものが刺さったような感じがした。


「やめとけ、人間は食っても不味いだけだぞ」


「そーですかー……残念、治安のわるいところだと食料に困らないと思ったんですがねえ」


 普通食料が足りないからって人間を食おうって発想になるか? コイツの常識はどこまでも理解出来んな。


「お腹も空きましたし次の町にいって食事としましょうか」


「言っておくが次の町も魔族の制圧下にあるんだからな? まともな飯を期待するなよ」


 そうして俺たちは次の町へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る