第13話「魔族に虐げられている町に向かう」

「ねーねー、マイナーさん、まーだ歩くんですか?」


「仕方ないだろ、魔族に恨みを買っているんだから乗合馬車も使えないだろ」


 まあ俺たちに恨みを買った魔族は綺麗に潰されているわけだが……雑魚相手に一々戦いを繰り広げることもなく、喧嘩を売ってきた側から魔物は綺麗に消えていく、マリアの遠隔攻撃が非常に効果を発揮していた。


 しかし魔族に襲われて無辜の人が損害を被っても困るので俺たちの旅は徒歩だ。そのくらいでも魔族領までいけるのだから馬車を買おうとは思わない。しかしマリアさんは不満な様子だ。


「まったく……今度からは魔族をもっと徹底的に根絶やしにしないと恨みの連鎖が鬱陶しいですね」


「殺した相手の関係者に恨むなってのは無理な話だろ」


 実際マリアは家族の恨みで俺と一緒に歩いているわけだしな。しかし、そろそろ地図によると町に着くはずだ。そこは魔族が人間を弾圧しているらしいので、安心してマリアに根絶やしにしていただける。その点の心配は無用だ。


「あっ!? マイナーさん! 剣が消えていきます!」


 見るとそちらでマリアの持っていた剣が、綺麗な光の粒子になって崩れ、天に昇っていった。


「よし、次の町までの役割は終えたようだな。じゃあガチャを回すが恒常ガチャでいいな?」


「私にはよく分かりませんけど……マイナーさんのスキルを信じましょう!」


 俺に信頼を寄せてくれたので、安心して『採掘』スキルを使う。七色に輝く石が大量に生成されていく。


『通常ガチャを使用します、ピックアップはありません』


 ピックアップというのが何を指すのかは分からなかったが、とにかく光のドームが十個円を描いて出来て、金色三個、虹色一個、他は銀色の光だった。


「ワクワクしますね! マイナーさん!」


「俺はまともなものが出てくるか不安だよ」


 虹色のドームからは刀身が半透明な剣が出てきた、いや、よく見ると刃が薄すぎて透けているようだ。一体何を素材にしたらそんな剣が出来るのだろうか? というか耐久力の欠片もなさそうな剣だな……


「私これをもーらい! これは切れ味がよさそうですね!」


 マリアは迷うことなくその極薄の剣を取った。耐久性とか不安はないんですかね?


「なあ、それ折れそうだしもう少し無難なやつにしておいたら?」


「でもほら」


 マリアは足元にあった石をポンと上に放ってそれを切り裂いた。綺麗な断面を持った石が二つ出来上がる。


「切れ味はすごいな……折れないのか?」


 そう訊ねるとマリアは剣のサキを地面に押しつけて刀身の横側を思い切り蹴り飛ばした。ビヨンビヨンとバネの如く震えてから元に戻った。


「怖い剣だな……」


「頼りにはなりますよ」


「そうかよ、マリアがいいって言うならいいんじゃないか?」


 俺は適当に答えて、この先に町が近いことを予感した。町の中ではどのくらい暴れているのだろうか? 魔族のことだから生きている人間がもう居ないのかもしれない。その場合はマリアのことだ、遠慮なく殲滅することだろう。


 巻き込まれてはかなわないので金色の光から出てきたいかにも頼りになりそうな剣を手に取って振ってみる。その辺の石ならこの剣でも真っ二つにすることは出来た。ガチャってなかなかすごいんだな。


「反応が薄いですよ! マイナーさんは強い武器を召喚したんだからもっと誇っていいのに」


「スキルなんてどこまで信用していいかわからないもんに頼る気にもなれないんでな」


 スキルは確かに便利だが、ソレに頼りっきりになると人として成長しない。スキルはあくまでも補助だと思っている、まあ……家族の皆さんにとっては違ったようだが。


「マイナーさんは私のスキルもあてにしないのですか?」


「そんなわけないだろ。むしろお前がいなかったら俺のスキルなんてゴミだろうさ」


「いやーお褒めにあずかり光栄です」


 そんな二人で軽いやりとりをしながら歩いていると、町が見えてきた。いや、正確に言うと見えてきたのは町ではない、町を覆っているであろう暗雲だ。


「いかにも魔族が支配していそうな陰気な気配を感じます」


 マリアは陰気などと言っていたが、それは暗闇を作り出しておりおどろおどろしいもので、陰気などと一言で済ませられるようなものではない。


 そして少しその暗雲の下に向かっていくと、まだ明るいところに看板が出ていた。


『この先魔族支配地域! 立ち入り禁止!』


 そう書かれた看板が立っている。それをマリアはまるっきり無視して看板の先へ行った。俺もそれに合わせて追いつく。結局、逃げるという選択肢は無いのだからそれ以外にすることはない。


「この先にいる魔族はどんなやつなんだろうな?」


 俺がマリアに訊くと、至極面倒くさそうに返答をしてきた。


「どんな奴であれ倒す以外にあり得ませんよ。魔族は地獄に送るべき……いや、地獄すらも生ぬるいですね、むしろ完全に消し飛ばすべきでしょうね」


 魔族滅ぼすべしと言うマリアの意見は頑なだった。この調子でいけばあの町を支配している魔族も皆殺しだろうな、コイツに温情などという言葉が存在しないのは分かっている。でなければ今までにもう少し躊躇ったりしたはずだ。


「さあマイナーさん! 連中に地獄を見せてやりましょう!」


「まて、アイテムを出して置きたい」


 俺は慎重論を唱える。マリアの『幸運』があれば珍しいアイテムを出せるはずだ。出来ればエリクサーなんかが欲しい。


『採掘』


 ずももと地面から輝く石が湧き出てくる。それを使って『アイテムガチャ』を回す。二つが虹色の光、一つの金色の光、残りは青色の光に包まれて出現した。


「なるほど、毒消し草に薬草に……あんまり使えそうにないですね……お! エリクサーがあるじゃないですか!」


 しかも二本も瓶で出てきた、なおかつ『お徳用』とでも言いたげな腕の第1関節くらいまでのサイズの瓶が二本……持ち歩くのも大変そうだ。なお、金色の光からは輝く石が出てきた、ガチャ石ではない、手に持つとそれから魔力が伝わってくるのが感じられた。


 魔力の補給用途に使えそうなのでそれはそっと懐に入れておいた。ついでに毒消し草と薬草を最低限を持って、俺たちは暗雲ただ込める土地へと突入していく。


 俺はなんとなくその先に不吉な気配を感じながらも二人で装備を調えて進んでいった。

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