第9話「ヴェノム戦」
「ヒャーーーーーーハハハハハ!! 滅べ滅べー!」
まず断っておくがこの目の前で暴れ回っているのはヴェノムでもなければ町を徘徊しているガーゴイルですらない。お察しの通りマリアが襲い来る敵を片っ端から切り伏せている。どっちが悪なんだろうな、善悪二元論で語れないにせよマリアの行為はやりたい放題を極めていた。
「グルルル……」
フェンリルは神獣モードで俺に襲いかかってくる敵を排除してくれている。幸いマリアに手を取られていて俺の方へはほとんど攻撃が飛んでこなかった。
「主、問題は無いですか?」
「ああ、こっちには礫一つ飛んでこないよ。もっとも、魔族には随分と恨まれそうだがな」
目の前でやりたい放題して暴れているマリアを見ながら言う。復讐のきっかけを作ったのは魔族なので同情はしないが、それにしても有様がしっちゃかめっちゃかのザマになっている。
「やりたい放題だよなあ……」
俺がそうこぼすとフェンリルが『恨みというのはそれだけ根深いものなのでしょうな』と答えた。そんな中飛んでくる虫の魔物を鬱陶しそうにフェンリルがプチプチ潰していた。俺の方へ来たのは光の剣でつつくと消えてなくなる程度の小物だ。
「チョロいなあ……」
「ヴェノムとやらはいつになったら出てくるのでしょう? こんなクズのような魔物ばかり出してきていますが、マリア様のいい餌でしょう」
「餌って……確かにやりたい放題だもんなあ。囮って感じでもないし、フェンリル以外警戒してないんじゃないか? マリアだって見た目は一応少女だしさ」
「一応……ですがね」
普通の少女は魔剣握って魔族を危機として殺したりはしません、ああしてやりたい放題やっているのは全部魔族のせいです。
と責任を押しつけても始まらないので、俺も剣を振って雑魚をいくらか消す。こんな消耗戦は不毛だし、いくらでも湧くような魔物を相手にしていてはキリがない。
「主もなかなかやりますなあ!」
「便利な剣のおかげだよ」
一振りするごとに光の剣から光線が出て魔族たちを焼いていく。圧倒的な力の差がそこにはあった。
「ギエエエエエエエエエ」
「クエエエエエエエエエ」
「魔族の鳴き声はうるさいなあ」
「そうですか? 私にはこの声が与えてくれる愉悦感はものすごく心地良いですよ?」
「サイコパスの感想は参考にならないからな?」
大喜びで魔族を殺しまくっている連中の言葉があてになるはずないだろう、人間だって全員が魔族を殺すことに快感を見出すわけじゃないんだぞ。
「まったく……小物を始末するのにいつまでかかっているのだ。これだから無能な部下を持つと苦労する」
のっしのしと図体のデカい牛のような化け物が現れた。体は全体的に真っ黒で、ペロペロしている舌は蛇のように先が別れている。
「よっしゃああああああ!! お前がボスですね! 死ねええええええい!」
「うっひい!? なんだこの化け物は!?」
見た目と登場場面は違うようで案外素早くマリアの斬撃を回避した。そこへ追撃の衝撃波が飛んできて吹き飛ばされる。大したことのない相手なのかもな。それはともかく魔族と見ると飛びかかって殺そうとする殺意に溢れたマリアさん怖いです。もちろん驚いているのは魔王軍のヴェノムである、威厳もクソも内的の登場に俺とフェンリルは呑気に眺めていた。
「主、我も加勢しましょうか?」
フェンリルがそう訊いてきたので、現状を見て『加勢の必要は無いだろ』と答えた。
俺は念のためガチャ石を使ったアイテムを引くことにした。幸いガチャ石のあまりをまだ持っていたので瞬時にガチャを回すことが出来た。出てきたアイテムは……薬草薬草毒消し草……ロクなのが出てこないな。そこで一つだけ使えそうなものが出てきた。盾だ。それも十分軽く丈夫そうなので、それをマリアの方へ投げて渡した。
「それも使え!」
「了解!」
ちょうどヴェノムが毒液を吐きかけてきたが、盾から光の壁が出て毒液を全てブロックした。
「クソが! ならばあの仲間だ!」
ヴェノムが俺たちの方を向けて毒液をまき散らした。それをフェンリルがブロックしてくれた。
「助かるよ、ところで毒消し草が必要か?」
「必要無いのですが……主の好意を無駄にしたくないので、施しを受けておきます」
「そうかい」
俺は毒消し草をフェンリルに食わせた。飲ませる前と変わらず元気な様子だし毒液を体毛が弾いていたのでそれほど必要無いのかもしれないな、しかしコイツは忠実な僕だな、あっちなんて……
「ひゃっはああああああああああああ死になさい!」
「人間ごときがああああ! うお! ちょ! まだ喋ってる途中……」
「問答無用!」
盾と剣で戦うマリアをぼんやり一人と一匹で眺めながら、イメージしていた魔王軍の討伐とは随分異なるなあ……などと呑気に考えていた。もっとこう死闘を繰り広げるイメージだったが、今のところマリアが圧倒的な暴力でヴェノムを圧倒している。
力に正義があればいいのだろうが、マリアの場合は完全に私怨なので暴力と呼んで差し支えないだろう。
「くらえええええええ!!」
マリアが盾でぶん殴っていた、それ、そういう使い方も出来るんだな……出した俺がいうのもなんだが思いも寄らない使い方だった。
「鬱陶しい!」
「どっちがですか! いい加減魔王軍なら男らしく死んだらどうですか!」
魔族に性別があるのかは知らないが、ヴェノムは盾の発する光の壁を破れず、スパスパ剣から衝撃波を飛ばすマリアの攻撃を一方的に受けていた。うん、雑魚だな。
しかし勝負がつかないのは、マリアが戦いを楽しんでいるからだろう。あの魔剣で直接切りつければ、一発で決着がつきそうだが、相手をいたぶるのが大好きな様子だ。僅かな時間の間に性格が変わるなあ……両親がいればこんな事はしてないんだろうな……まあ今さら生き返らせる方法があるわけでもなし、魔族の皆さんには大人しく死んでもらおう。
「あははははは! 惨めですねえ! 人間ごときに好き放題される気分はどうですか? これがクソみたいな魔族が見下した人間の力ですよ!」
「ゲブッ……おい! さっさと加勢しろ!」
ヴェノムが増援を呼んだのだが一匹たりとも現れず、困惑しているヴェノムにマリアは残酷な事実を告げた。
「あら……あなたの部下ならそこら辺で死体になっているので全部でしょう?」
それを聞いてヴェノムは辺りを見回す。下級魔族から中級魔族まで、様々な個体の死体が山積みになっている。それはどうしようも無く残酷な光景だった。つーか魔王軍より情がないマリアが怖いよ……
「なぁ!? このエリートたちが全滅……だと……」
ヴェノムは絶句していたが、マリアをメインに俺たちが撃ち漏らしたものをぺちぺち叩くだけで全滅したぞ? 部下に信頼を置きすぎではないだろうか?
「さて、そろそろやりましょうかね」
ざくり
ヴェノムの足が切り落とされた。悲鳴を上げるヴェノム、しかしそれに構わず両腕をざくざくっと切り落とした。
もはや転がりながら毒液を吐くことしか出来なくなったヴェノムを、反抗出来ないのを確認してからマリアがザクザクと斬っていく。内臓が溢れ徐々にミンチに……はならず黒い液体となって死んでいった。しかし意識を無くした程度で満足するはずもないマリアは死体切りを続け、綺麗さっぱりヴェノムが地面のに液体として広がるまで切りつけた。
「ふう……どんなものでしょうか、マイナーさんとフェンリルさんも参加しますか?」
「「遠慮しておく」」
俺たちは二人で追撃の権利を辞退した。
こうして魔族の幹部の一人がこの世から消えていった。
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