第10話「町の開放、そして別れ」

 こうして町は無事ヴェノムの魔の手から開放された。それ自体は素晴らしいことだと思うのだが、解放された町の住人の態度が妙によそよそしい。理由は大体分かっているんだがな。


 並んだ切妻屋根の家々には窓がしっかりとついている。つまりはマリアの凶行をしっかりと見ている人がほとんどだということだ。町の人も魔族相手とはいえアレは引くらしいな。


 それを察してか町長が俺たちのところにやってきた。


「いやはや、なんとも猛烈な戦闘でしたな……あの魔族を倒してくださり本当にありがとうございます。おかげさまでこの町は救われました」


 いい気になってマリアが反応する。


「ふふん! でしょう! 私たちに任せておけば何の問題も無いんですよ!」


「そ……そうですな」


 町長もマリアの戦いっぷりを見ていたらしく、少しだけ引きつつも、マリアを褒めておいたようだ。まあこの中で怒らせると何やるか分かんないもののトップはマリアだもんな。


 そんな他愛ない言葉を交わしているとフェンリルが声をかけてきた。


「主、我はここまでのようですな。用を終えました故我は消えるようです」


 突然の発言に何を言うのかと思ったら、フェンリルの足元から光の粒子が浮いて静かにその姿を消しつつあった。


「なんだ、消えるのか?」


 俺がぶっきらぼうにそう言うと……


「我の目的は魔王軍との戦闘です、魔王軍全体ではなく一部隊と交戦を終えるまでのようですな」


「そうか……痛かったり苦しかったりするか?」


「いえ、我があるべき世界へ戻るだけですので」


 そういやフェンリルも異世界から召喚したんだもんな。永久に居着くことは出来ないということだろう。


「主に頂いた毒消し草の味は忘れません。我に自費をくださったことは必ず命の限り心に留めておきます」


「そんなのあんまり気にしなくていいぞ」


 だってガチャで出てきた外れの品だしな。


「それと主、我と同時期に出した武器も消滅するようなので老婆心ながら再度生成することをお勧めしておきます」


 腰を見ると提げていた剣がぼんやりと曖昧になり消えつつあった。ガチャの効果は永続ではないな。


 マリアの方も俺たちの話を聞いていたのか自分の魔剣が消えるのを名残惜しそうに抱きしめていた。


「フェンリル、ご苦労だったな。感謝するよ」


「身に余るお言葉です」


「フェンリルさん! それなりに楽しかったですよ!」


「マリア様もお元気で」


「「さよなら」」


 そう俺たちが言ったところでフェンリルは完全に光になって消えた。気がつくと俺たちが持っていた武器も消えていたので町の中でよかった。そうそう都合よく良質な武器が出てくるかどうかは分からないからな。


「さてマイナーさん」


「なんだ?」


「復讐は止められませんね! 私、今ものすっごく気持ちいいです!」


「そ……そうか」


 俺はとんでもない傑物を生み出してしまったのではないだろうか? そんな予感がどうにも頭の中から離れなかった。


「お二方ともありがとうございました。おかげでこの村が救われました」


 町長がいい雰囲気のところに割り込んできたが、この状況を救われたと言えるのだろうか? 少なくとも魔族の騒乱で多少の家が壊れていた。まあほんの多少、僅かばかり、微妙にマリアが好き放題やったことも関係していないこともないかなとは思う。しかし責められなかったので俺はさっさと逃げることにした。


「いえいえ、お気になさらず。それでは俺たちはこれで」


「ちょっとマイナーさん! 歓迎を受けてからでもよくないですか?」


「歓迎……?」


 町長が『コイツ本気で歓迎されると思ってんのか?』という顔をしていたので、俺はマリアの手を引いて町の出口に向かった。マリアはすっかり英雄気分だったが、もう少し現実を見て欲しいものだ。


 俺が引っ張ったときにホッと一息ついていた町長の姿勢が本音を白日の下にさらしていた。結局、魔族より強い上に力の強いやつの滞在など臨まれないのだ。


 町を出たところでマリアが俺の手を振り払って言う。


「なんなんですか! せっかく皆さんが魔族から解放された記念日になるんですよ?」


「お前な……魔族が納めていたときより町をボロボロにして歓迎されると思ってるのか?」


「う゛……それはまあ魔族から解放されたってことでチャラで……」


「はいはい、そういうのは町に被害を出さないようにしてから言おうな」


 そうして俺たちは新しい魔族を倒すために出かけた。


 後日、魔族から解放されたという噂を聞いて国軍兵が押し寄せたのだが、本当に魔族はいなかったがボロボロになった町を見て、一体何がそこまで激しい戦いを繰り広げたのか町民から話を聞こうとしたが、誰もが重い口を開くことは無いのだった。

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