第7話「ナザレ町へ入る準備」

 道をフェンリルに乗って歩いて行くと、『ナザレ町』という看板があった。どうやらこの先に町があるようだ。その割には道に通行した後の轍のようなものが無いので、おそらくこの先に魔王軍の連中が待っているのだろう。俺たちが叩き潰さなければならない相手だ。


「ねえ、この先に私たちの敵がいるんですか?」


「ああ、そうだな……俺『たち』が完膚なきまでに潰さなければならない相手だ」


 正直言って魔王軍を相手にするなんて実家を追放でもされなければ戦おうなんて思いもよらなかっただろう。町への道を行くと、所々に野生生物の死体が泡を吹いて転がっていた。敵はなかなか面倒な相手のようだ。


「フェンリル、ストップだ」


 ピタリとフェンリルの足が止まり思わず前につんのめったところでマリアに抱きつかれた、柔らかい感触が嬉しい。


「どうしたのですか、主?」


「そろそろ敵に出会いそうだからもう一回ガチャを回しておく」


「おお!! それは重要ですな」


「マイナーさん! 私にも使える武器をください! と言うかくれ!」


 はいはい、みんなにあげるから落ち着こうな? 急いては事をし損じると言う言葉を知らないのか。


『ガチャを規定回数回したことにより『武器ガチャ』が解放されました』


 よくわからんが新しいガチャということだろう。何事も無く『採掘』を使用して石を生成する。ゴロゴロと石が湧いてくる様はいつ見ても奇妙だ。


『武器ガチャを回しますか?』


 そんなアナウンスが流れた。武器ガチャの名前からして武器が出てくるのだろう。マリアのためにはまともな装備が必要だし、回してみるとするか。


『武器ガチャを回します』


 採掘スキルで出した石がいくらか消えた。キャラが出てこないせいだろうか、何故か消費される石は少なかった。ガチャも使い分けることが必要なようだな。


 ガラガラガラ


 ガチャで引いた武器がまとめて出てきた。見たところその辺で買えそうな武器がほとんどだが、一振りだけなかなかの品質のものがあった。どうやらハズレを引くときは引いてしまうらしい。


「ほほう……コイツが当たりっぽいですね。マイナーさん」


「だろうな、なかなか見る目があるじゃあないか」


 俺は見て取ったマリアを褒めた。フェンリルの方は唸りながら武器達を見てから俺にすり寄ってきた。


「主、アレは恐ろしいです……神獣すら殺す魔剣グリードです。我は大丈夫なのでしょうか?」


「安心しろ、持っているのはマリアだからな」


 一応マリアへの信用はあるのだろう、フェンリルは唸るのをやめて、魔剣をブンブン振るマリアを微笑ましい目で見ていたと思う。少なくとも俺にはフェンリルの視線がそう見えた。


「マイナーさん! これ、めっちゃ良い剣ですね! うちの家宝にしたいくらいですよ!」


「はいはい、使い終わったら消えるんだから愛着を持つのも程々にな」


「えー……もったいないですよ!」


 そんなことを言われてもな……スキルっていうのはそういうものだし、それが当たり前だと思っていた。よく考えると使い終わると消える武器や生き物っておかしいのか? おかしい気もするんだが、神とやらは時にそういう理不尽なことをするものだ。ああいう超自然的なものに理論を求めてはならないと思っていた。


 兄がそこそこ使えるスキルを授かったときにも、そういうものなのだろうと思っていたし、まさか俺に外れスキルと見なされているものが当たるとは思わなかった。それが当たり前ではないのだろうか。


「まあいいです、この剣で魔族をバッタバッタと切り倒しちゃいますかね! さぞや気持ちが良いことだと思いますよ!」


「マリアって案外敵を殺すのに容赦ないのな……」


 俺が少し引いてそう答えると、何を言っているんだという感じで言う。


「当然でしょう! 私の私怨と言われようが魔族は滅ぼすべきなんですよ! 私は魔族に対して一切容赦しませんよ!」


 まあ……本人が満足なら良いんじゃないかな。なんと言ってもマリアからすれば魔族は親の仇なわけで、そりゃ倒したくもなるよなと思う。しかしさっきの倒し方はエグかったぞ、肉塊になるまで潰し続けた根性は凄いものだ。


「フェンリル、お前も武器が欲しいか?」


「そうですね……我はこの牙と爪があれば魔族など軽く切り裂きくいちぎれるのですが……」


「じゃあ要らないな、なんだか武器ガチャをやたら回すと物騒なものが出てきそうな気がするんだ」


「主の判断は賢明かと」


 俺は元気よく切れ味の非常によさそうな剣を振り回して楽しんでいるマリアを見て、次に敵になる魔王軍は気の毒だなと思った。

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