第6話「魔王軍の尖兵」
フェンリルに揺られ長道を行く俺たちを止めたのは角の生えた女だった。
「待てい! 貴様らこの先が魔王軍の占拠地であることを知っておるのか!」
おっぱい大きいっすね。と言う言葉が喉まで出かかってマリアの機嫌が悪くなりそうだからやめた。
「フェンリル見ても驚かないのか……魔族だけのことはあるなー……」
「お主など食うにも値せんわ、失せろ」
「うぅ……グズッ……せっかくヴェノム様から命令されたのに……なんで初戦がこんな化け物なのよぅ……」
あーあ、泣いちゃった。そのまま放っといて先に進もうかな。
「マイナーさん! フェンリルさん! 失礼ですよ! せっかく雑魚であっても私たちと戦いたいと言っているんですから、しっかり根絶やしにしてあげないと気の毒でしょう!」
「ヒィ!」
物騒なことを言うマリアに魔族はドン引きしていた。
とりあえず名乗りを上げるか。
「俺はマイナー! 魔王軍討伐に向かっているものだ! 俺の邪魔をするなら……分かるよな?」
「私はデグノス! 魔王様に使えるものだ!」
「よし、名乗りは上げたからアイツ食っちゃっていいぞ」
俺はフェンリルにそう言う。デグノスは『たしゅけて……』と錯乱していたが情けをかけるわけにはいかない。俺たちと魔王軍は殺し合いをしているのだから当然だろう。
「キー! キキー!」
低級魔族のゴブリン共がデグノスの制止も理解せず突っ込んできたので光の剣で薙いだ。集団で襲いかかってきたゴブリン共は綺麗さっぱり消えて無くなった。
「なんで私がこんな化け物連中を相手に……ここら辺には雑魚しかいないって聞いたのに……」
デグノスは左遷でもされたのだろうか? それとも単に実力不足か、どこからか集まってきた下級魔物の有象無象質に囲まれてビビりまくっていた。
「フェンリルさん、まわりの魔物だけを軽く消し飛ばしてください」
「構わんが……」
フェンリルの咆哮でその魔力を伴った声に絶えられなかった魔物達が次々と消えていった。そして最後にはデグノスだけが残される。
「おい……」
俺が発言したのではない、フェンリルの声でもなかった。その低い低い地獄の底から響くような声はマリアの喉から出ていた。
「この辺の魔物のリーダーなんでしょう? 何をしれっとしているんですか?」
ゴンとデグノスの顔が思い切り殴られ吹っ飛ぶ。よくよく考えてみればこの辺の魔物のリーダーということは、この辺で死んでしまったマリアの両親について責任があるんだな、そりゃキレるわ。
「ぐへっ……人間ごとき……ふごっ!」
「どうだ、人間ごときに踏みにじられる気分は? あなたが人間を殺すように私も魔族を殺したかったんですよ。ちょうどお似合いの関係ですねえ……」
あー……これは止めらんないやつだ。憎しみは何も生まないとか復讐しても寝台人は帰らないとは言うが、復讐するときが晴れるというのもまた事実なわけで、そりゃマリアだってスッキリしたいよなあ。デグノスにはしっかり犠牲となってもらうか。俺の知ったことではないし、代わりに倒してくれるなら手間が減ってありがたいくらいだ。
「どうですか? 母さんと父さんの痛みが百万分の一でも分かりましたか? まだ終わっちゃいませんよ」
ドスッとデグノスの足にナイフが刺される。ガチャで出てきたが、あまりレアリティが高くなかったので放置したものだ。マリアのやつ、拾ってたのか……
「ヒギィ! た……助け……ゴブッ」
「情けないですねえ、それでも魔王軍ですか? さっさと立ち上がって向かってきなさいよ」
ドスッとデグノスのもう片方の足にナイフが刺さる。あまりレアリティが高くないとはいえ、普通の魔族に怪我を負わせるくらいには十分用を足すらしい。
「ひぐぅ!」
「どうしました? 魔族なんでしょう? さっさと傷を治して立ち上がったらどうですか?」
ざくり
足がスパッと切り裂かれた。明らかに魔族であっても回復が追いつかない速度で傷つけられている。
「主、止めますか?」
俺は少し考えて答える。
「いや、やめとこう。マリアにとっては必要なことなんだよ。俺たちにとってはさっさと殺してもいいようなことでもアイツの感情が許さないんだろうさ」
「人間とは分かりませんな……」
フェンリルは理解出来ないようだ。まあ復讐に必死になる心なんて持つのは感情を持つ生き物だけだからな。フェンリルのようにほとんど敵がいなければ、復讐までしたいと思える相手に出会うようなこともないのだろう。
「ホラホラ、もっと反抗してみなさいよ! それとも私の親に泣いて謝りますかねえ!」
うん、マリアは怒らせないように気をつけよう。アイツを怒らせたら何が起きるか分かったものじゃない。俺は進んで危険を冒すようなタイプではないからな、慎重派と思ってもらいたい。
――数刻後
「あの~主……もはやアレは肉塊では?」
「マリア的にはまだ生きているようだぞ。死体ならいくら砕こうが恨みを買うことも無いんだし見えていないふりをしておこう」
「ですな……」
俺とフェンリルはドン引きしながらもはや絶命しているデグノスを助けるつもりもなければ、むしろ敵対していたくらいなので助けることは決してしなかった。俺たちが『アレ? アイツから情報をもらえたよな?』と気がついた頃にはすっかり魔王軍の手先はミンチになっていた。
どうやってナイフだけしか武器がないのにミンチになるまで砕けたのかは謎だが、そこはマリアの執念がなした技だと思っておこう。アンデッドでも死に絶えるほど不定形に砕かれたデグノスを見ながら、魔王軍との開戦ののろしはこれだろうかと思った。
「ふぅ……
マジかよ……アレだけやっても少しだけなのか!? アイツの憎しみは底が知れないな。しかしそう思えるのは俺が両親から放逐された身だからそう感じるだけのことかもしれない。あるいは俺も両親と仲が良ければもう少し魔族相手に憎しみを抱いたのかもしれないな。
「よし、マリア! さっぱりしたか?」
「少しだけね。やっぱり根絶やしにするべきだとは思いますが」
「じゃあ行くか」
「主、我はどうすれば……?」
フェンリルがそう訊いてきたので、『町までついてきてくれ、そこで魔族を倒すのに協力してくれ』と言っておいた。
俺たちの旅として目的地である町まで向かうことにしたのだった。
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