第5話「魔王軍の待つ町への下準備」

「マイナーさん、この先には何があるんですか?」


 何日か歩いて行くと当然の疑問をマリアが呈してきた。そりゃあ気になるよなあ。


「この道の先には魔王軍が支配されている町があるらしい」


 端的にそう答えるとマリアは少し驚きの顔をした。しかすすぐに表情を戻した、慌てるのはマズいと思ったのだろう。


「いきなりですね……勝算はありますか?」


「それはマリア次第だな……いや、俺のガチャ運次第だな」


「私はもちろん協力しますが……上手くいくんですかね?」


 ある程度の石を採掘しておいて、マリアの『幸運』スキルで魔王軍にカチコミをかける、それが一つしか無い俺たちが魔王軍と戦う手段だ。多分どうにかなる。どうせたまたま拾った命だ、最大限のリスクを冒してリターンもクソもない冒涜的な行動をおこしてもいいだろう。


「勝算は僅かだよ、じゃあやめるか?」


 俺は意地の悪い質問をマリアにした。


「ご冗談を、私が魔族をどう思っているかくらいご存じでしょうに……」


 分かっているような相棒がいて嬉しいよ。俺たちには戦う以外の選択肢などロクに無い。ただただ戦って勝つのみだ。負ければ死ぬが勝てれば大きい、この勝負に賭けない手はないだろう。


 俺たちは運命共同体であり、ただただ目の前にいるまぞくを倒していくだけのことだ。人間として敵を倒していくことだけが俺たちの目的であり、目の前にいる連中は全て打ち倒して進んでいくべきだ。


「俺たちには戦う以外ないことくらい知っているだろう? 身分も血縁もない人間は実力で立場を勝ち取るしかないんだよ」


「世の中は無常ですねえ……」


「世の中はいつだって残酷なんだよ。じゃあ戦わないか?」


 その言葉にマリアは即答した。


「戦うに決まっているでしょう! 両親の敵を叩き潰す以外の選択肢があると思っているんですか?」


「……いや、無いな」


 ヨシ! 言質は取ったぞ! これでもう戦うしか無いな! 勝つか負けるか、二つに一つのギャンブルだ。俺はもちろん勝つ方に全賭けするがな! せいぜい勝負といこうじゃないか。


「その……マイナーさん? あなたのご実家に頼れば……」


「実家? そんなものは無いよ」


 何を当たり前のことを、俺たちは戦いに明け暮れるしか選択肢は残されていないというのに、しょーもないことを考えるんだな。


「そ、そうですか……でも親兄弟が生きているなら大事にした方がいいですよ?」


「生きているなら……ね。そのうち連中も死ぬんだろうし気にする事じゃないだろ」


 俺は家は捨てたのでもうどうだっていい。クソスキルだとバカにしたことは一生恨んでやるが、だからこそそれを見返したときなど爽快感が半端ではない。あいつらを見返してスッキリするなんて最高の娯楽じゃないか!


 そんな理想の体験を想像すると興奮さえしてくる。どうせこれ以上落ちることはないのだ、せいぜい魔王軍共を消し飛ばして人類と全面戦争を起こしたっていいだろう。負けたということは俺は死んでいるわけだからな! 勝つ方に転べば英雄扱いだし、負けたら後の事なんて知ったこっちゃない、運が良ければ実家の連中が連帯責任を負ってくれるさ。


「マイナーさん……あなたもなかなか業が深いですね……」


 ドン引きしているマリアがそう言っていたが、戦うしか無いならせいぜい派手にいこうじゃないか!


「とりあえず町に入る前にガチャを回しておくか」


「はい! 私の出番ですね!」


 そう、俺はガチャ石を『採掘』スキルで掘り始めた。あっという間に山積みになる石塊の山を見ていると、これが貴重品になるのだと感動するな。敵には回したくないのでマリアのご機嫌とりは十全にしておこう。


「じゃあ俺に『幸運』スキルを使ってくれるか?」


「はい!」


 笑顔になったマリアが俺に運をあげるスキルを使用してくれる。その副作用なのか多少の幸福感を覚えることになった。このスキルは素晴らしいものだな。絶対にマリアを手放さないように気をつけないとな。


「いい感じだ、じゃあガチャを回してみるぞ」


「今ですか?」


 少しだけ驚いた風にマリアが言う。戦いというのは準備が一番大切なのだ、出たとこ勝負では負けても文句は言えないだろう。逆に言えば卑怯だろうが何だろうが前もって準備しておいても勝利すれば正義なのだ。正々堂々などという概念はその辺に埋めておけばいい。


『十連ガチャが回せます、ハイレアリティの確率が上がりますが使用しますか?』


『当然!』


 ガチャの神様だろうか? 十連ガチャが回せると言ってきたのでありがたく回させてもらうことにした。しかし十連と言うだけあってそこそこの時間をかけて準備した意志が一気に大半が消滅した。


 ガチャンという音が頭に響いて大量の物資が地面から湧いてきた光の中に現れた。中身は……


「装備品でしょうか? こっちにはポーションもありますね」


「みたいだな、一発でキャラを引けると思ったんだが……」


「ごめんなさい……」


「いや、マリアのせいじゃないさ」


『採掘』


 ドサリと大量の石が落ちてくる。もう十連分引けばいいだけだ。シンプルな話だよな!


「じゃあもう十連回してみるか」


「マイナーさんが幸せでありますように」


 マリアの祈りで気分が良くなる。神に祝福されている気分だった。そして現に今度出てきた光は虹色に光っていた。


 有象無象のゴミばかり目に付くが、本当に注目するべきは中央の魔方陣、ここから出てくるのはキャラだろう。


 真っ白な魔方陣から出てきたのは……犬だった。普通の犬か?


「我を呼んだのはお主か?」


 その犬は言葉を喋った。一応レア枠ということでそのくらいは出来るらしい。


「ああ、そうだ」


「ではあなたが私の主だ、何なりと命令を」


「ワンちゃん可愛いいいいいいい!!」


 ダッシュで飛びつくマリア。不快そうにしている犬が突然巨大化した。


 人の背丈よりも大きい犬は俺に向けて声をかけてきた。


「我はフェンリル、主の役に立とう、しかしこの小娘は主ではない。どうすればいいのだ?」


「あー……適当に放っておいてくれ。多分モフモフしてたら満足してくれるだろ。お前に頼みたいことはまた別にある」


 フェンリルか、神獣じゃないか。なかなかのあたりだな。これは上手いこと魔王軍の討伐が出来るんじゃないか?


「頼みたいこと? それが我を呼び出した理由か?」


「ああ、この先に魔王軍が支配している村がある。そこから魔王軍を排除して欲しい」


 フェンリルはブンブンと尻尾を振った。


「良きかな! 素晴らしい! 我はまだ戦えるのか! いいだろう、主の怨敵を抹殺してみせようではないか!」


 フェンリルがノリノリのようで安心した。これでどうとでもなるだろう。


「マイナーさん! これで私たちの勝ち確じゃないですか? 攻め込んじゃいましょうよ!」


 そう言うマリアに対して俺は慎重論を上げる。


「ガチャはまだまだ引けるんだから俺たちの装備も完璧にしておいた方がいいだろ。何しろ俺たちが死んだら全ておじゃんなんだからな」


 そう言うとマリアの『幸運』の力が注ぎ込まれるのが分かった。再び十連を回すとフェンリルが驚いていた。


「なんと! ソレは伝説のスキル『ガチャ』ではないか!」


「んー? 知ってるのか?」驚いているフェンリルに問いかける。


「うむ、何でも伝説上のスキルで何でも生み出せるという伝説のスキルじゃよ。しかし人間に使える者がいたという話は聞いたこともないがの」


「じゃあマイナーがその第一任者ですね!」


 たのしげにマリアは笑っていた。そこへ十連ガチャの結果が出現する。


「ほほぅ……なかなかの装備ではないか! さすがは我が主! その身にふさわしいものを身につけようというのだな!」


 フェンリルさんはなんだかテンションが上がっているようだが、たまたまガチャで出てきたものが優秀だっただけだぞ? 買いかぶられても困るっての。


 俺は一振りにきらびやかな剣を手に取った。


「さすが主だな、それは光の剣だ。かつて我に刃向かったものの中でもなかなかに健闘したものが持っていたぞ、まさかこんなところで見るとはな!」


 その健闘した人がどうなったのかは知らないが、気の毒なのでフェンリルの腹に収まっていないことを祈っておこう、だってそうだとしたら戦いに赴くのに縁起が悪すぎるものな。


 鈍く光り、それが一見高級品には見えないが、勘でそれがレアリティの高い品物だと分かる胸当てを身につけた。


「それは? 魔導具か……お主は何でも出せるんじゃな」


 フェンリルは何か知っているようだが語ろうとはしないので、その次にマリアの装備を選択した。ひたすらに防御力だけを考えたチェーンメイルを与えようかと思ったのだが、レアリティが低そうだったので、一見高めの上着に見えるものを着させた。フェンリルが『なるほど……耐魔法装備か……』などと一人納得していたが、これで俺たちの準備は揃った。後は町への道を行くのみだ。


 そして俺たちは目的の町へと、フェンリルの背に揺られながら向かった。

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