第4話「ガチャをたくさん引いてみる」

 さて、徒歩での旅も半日ほど続いた頃、日が落ちてそろそろ野営をしなければならないのだが……


「クソッ! また食料じゃない!」


「マイナー、私がスキルで協力するから……」


「ダメだ、幸運スキルを使うと高価なモノばかりになるだろう? そうなると食べ物が出る確率が下がるんだ」


 俺はスキルの『採掘』を使って石を掘ってはガチャを回すことを繰り返していた。要するに、俺たちの夕食がガチャで出ることに賭けていたのだ。


『採掘スキルを使用します』


 輝く石がまた出てくる、ソレを消費してガチャを回す、ソレを幾度となく繰り返しただろう。ソレはようやく出てきた。


「わあ! これってイノシシ鍋のセットじゃない?」


「疲れたな……これでようやく食事になるな」


「フフ……マイナー、お疲れ様」


 大量のゴミを生み出した後ようやく出てきた野菜と肉が鉄鍋に入ったものが食べ物らしく美味しそうだった。


「じゃあ私が炎魔法で暖めるね!」


「マリアって炎魔法使えたのか……頼むよ」


 言うが早いか腹が減っていたのか鍋の下が赤くなった、それからフツフツと鍋の中身が煮立っていき、直にイノシシ鍋が完成した。いい匂いが漂っているのは何故だろうか? 庶民の料理だけれど出すのにあまりにも苦労したせいか非常に美味しそうに感じられた。


 理由は知らないがご丁寧に食器一式も一緒に出てきているので、それを使って二人分取り分ける。美味しそうな香りがフワッと広がった。


「お肉はイノシシみたいですけど……野菜は何なんでしょうね?」


「んー……そうだな……深く考えない方がいいと思う。腹が減ったろ? そんな時に自分が今冷静に何を食べようとしているのかなんて考えない方がいいぞ」


 知らない方が食べやすいだろう。毒のあるものは出てこないだろうし、割と食べられそうな匂いと形をしているので大丈夫だろう。


「じゃあいただきます!」


「はいどうぞ」


 そうして二人で鍋を食べた。ご丁寧におたままでついているのだから食べやすい。こんな夕食セットなんてものが都合良く引けるのは運が良かったのだろうか? いや、ただ単に確率で出てくるものを引きまくっただけだな。


 二人でパクりと肉を口に入れる。ジュワッと旨みが広がり、脂の美味さに頭が支配されそうになった。


「美味いな……」


「美味しいです」


 ガチャを回しまくった甲斐もあったというものだ。それだけの価値がこの鍋には合った。剣の鍛錬をしていたとはいえ、その辺の野生の獣を狩って加工して食べられる状態にするのは結構な手間だ。それをすっ飛ばして料理のほぼ完成状態で出てくるというのは楽すぎるだろう。ありがたいことこの上ないな。


「あ、そっちの野菜がそろそろ良さそうですよ」


 マリアに言われて葉物野菜も食べてみた。さわやかな苦味の中に旨みと甘みさえ感じるような美味しい野菜だった。これは当たりのガチャなのだろうか? よく引けたものだ、まあ後ろに山のように外れのガラクタが積まれているわけだが……


 数々の犠牲クズアイテムの上に成り立っている鍋を二人で堪能した。まさかまともな食事がとれるとは思っていなかったので嬉しい驚きだ。せいぜい固形食料が出てくれば御の字程度に考えていた俺には素晴らしい品だ。


「ごちそうさま」


「ごちそうさん」


「いやー美味かったな!」


「はい! まともな食事ができたのは運が良かったです!」


 食べ終わったところで鍋と残りの中身は光の粒子になって消えていった。どうやら役目を終えると消えていくものらしい。


 幸い旅道具は持ってきていたので二人で寝ることにした。道の脇で野営をしたのだが、まともな生活は送れないだろうと思っていたところへの思わぬ幸運に感謝して眠りに就いた。


 ――翌朝


「ふぁあ……よく寝た」


 となりに寝ているマリアを見ると涙の垂れた跡が見えた。やっぱり両親を失うと辛いものなのか。俺みたいに喧嘩別れしたわけでもなく、自分を守って死んだんだもんな。


 俺は朝食で元気を出してもらおうと『採掘』を大量に使用した。それからガチャをひたすら回して石は溶けるように消えていった。


 大量に用意した石が無くなったので再び採掘してそれでガチャを回す。始めの頃はゴミのようなものばかり出てきたのだが、時折ではあるが安物の剣や、古くなった食器など、ギリギリ使えそうで使えなさそうな微妙なものも時折出てきた。


 そうして何回ガチャを回したか分からない頃にふかふかのパンがカゴに盛られて出てきた。これがマリアの『幸運』スキル無しでの限界と言ったところだろうか? とにかく食べ物が出てきたので、俺がガチャを回している横で寝ている彼女を起こした。


「マリア! 朝食だぞ!」


「ふぇ……ふぁあ……早いですね父さん……じゃなかったマイナーさん」


 まだ起きると親がいることを当たり前のことと思っているらしい。無理もないことだが、慣れてもらわなくてはならない。


「ようやくパンが出たんでな、お前を起こしたんだ。たっぷり食べられるぞ」


 そうしてパンの山が入ったカゴを見せると、マリアはゴクリと喉を鳴らした。


「なかなか美味しそうですね!」


「だろ? そこにゴミが大量にあるのは見なかったことにしてくれ」


 外れアイテムの山から目を逸らしてもらい、俺たちは朝食をとることになった。


 パンを一つ手に取りそれを噛みしめる。小麦のいい香りが鼻に抜けた。


「美味しいです!」


 マリアの方もパンを堪能しているようだ。満足のいくものを出せて本当によかった。俺だけでも頑張れば出せるものだな。そして鑑定レンズをマリアが使用してくれなければ、俺はクズスキル持ちとして野垂れ死んでいただろう。もはや感謝の言葉も無いが非常に嬉しいことだった。


 高級な宿の朝食にも負けない味だったが、それでも出せたのはパンだ。あのすさまじい天使を召喚したマリアの助けがなくてはこの先、やっていくのが厳しそうだなと思う。あの奇跡を何度でも起こせるのなら、魔王だって倒せるだろう。


「マイナーさん、ありがとうございます。私のために頑張ってくれたんですよね?」


「スキルを一人で使ったら何が出るのか試してみただけだよ……」


 マリアは横のゴミ山を見て微笑む。


「そういうことにしておきましょうか。でも、私はとっても感謝していますよ!」


「それはどうもありがとう。今はこのパンを楽しもうぜ」


「ですね」


 そうして二人で黙々とパンを噛んでいった。水の方は魔法で出せるのでパンが喉に詰まるようなこともない。


 俺はマリアが微笑んでくれたことに幾ばくかの満足感を得た。そしてマリアと二人で旅をするのも悪くない、そう思った。

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