雪月風花(1)

紅葉が美しい季節。

僕は、教室から外を眺めて、秋色に色付く街並みに見とれていた。


ジュンが後ろから声をかけてくる。


「めぐむ、やっと中間テスト終わったね」

「うん。ジュンはどうだった?」


「ふぁーあ。まぁまぁかな。めぐむは?」


ジュンは、あくびをしながら言う。


「僕も、まぁまぁかな」


僕は伸びをする。

ジュンは、帰り支度をしながら言った。


「明日はどうするの?」


中間テストの後は、授業は休みになるのだ。


「明日はのんびりして、また受験勉強かな」

「そうだよね。学校のテストなんて息抜きみたいな物だもんね」


「ふふふ。言えてる」

「じゃあね、めぐむ。お先!」


「またね、ジュン」




僕も帰り支度をする。

雅樹は、明日も予備校だったかな。


昇降口で靴を履き替える。

そのとき、スマホに連絡が入った。


僕はメールを読む。


『めぐむさん。お久しぶりです。すみません、突然のメール。ご相談がありまして、お会いできないでしょうか? 久遠』


久遠さん?


すごい、久しぶりだ。

僕はすぐに返信を送る。


『いいですよ。明日でしたらいつでも』


着信音。


『ありがとうございます。では、明日午前10時、待ち合わせ場所は……』




久遠さんか……。


そうだ。

前に会ったときは、確かゴールデンウィーク。


キスしちゃったんだよな。


ふふふ。

久遠さん、元気かな。


『分かりました。では、明日』


僕は返信を送る。


しばらくして、着信があった。


『できれば、女装で来て頂けないでしょうか?』


女装?


ああ、そっか。

僕の女装写真を見せたんだっけ……。


もしかして、久遠さん、僕の女装姿に惚れてしまったとか。

そんなことを思って、勝手に頬が熱くなる。


ふふふ。


でも、そんな訳はないか。

だって、ユヅキさんのことが好きなんだもんね。


本当に写真通りなのか、興味があるのかもしれない。


よーし。

それなら、気合を入れて久遠さんを驚かせてやろう。


女装も久しぶりだからちょっと楽しみ。


『いいですよ』


僕は、そう返信をすると、ウキウキしながら、家路についた。




次の日。

僕は、待ち合わせ場所の、美映留中央のとある喫茶店に向かった。


久遠さんと会うんだ。

ちょっと落ち着いたファッション。


ニットに、チェックのミニスカート。

タイツを穿いてショートブーツ。


あとは、寒いかもしれないからストールを羽織ってきた。


うん。

これなら、久遠さんみたいな大人の人と一緒に歩いてもおかしくないはず。




待ち合わせの喫茶店に入ると、窓際の席にいる久遠さんを直ぐに見つけた。


僕は、早足で近づく。


「久遠さん、お久しぶりです……」


そう言ってから、久遠さんの横にいる人物の姿が目に留まる。


「えっと、そちらの方は……」

「お久しぶりです、めぐむさん」


久遠さんは、隣の人物を紹介する。


「めぐむさん、ユヅキです」


隣の人物、ユヅキさんはお辞儀をする。


「はじめまして、雪月ユヅキです」


えっ?


雪月さんって、あのユヅキさん?

久遠さんの思い人の?


僕は、頭の中を高速回転させる。

そうだ、この人が、ユヅキさんなんだ。


それにしても……。


ああ。

なんて、綺麗な人。


男の人だよね?


華奢な体つきで、線が細い。

小顔だけど、可愛いというか凛とした男性の顔。


そうだ、宝塚の男役、といったらイメージが合う。


「はじめまして、青山 恵です」


僕もお辞儀をした。




久遠さんの話を聞いた。

あの後、直ぐにユヅキさんに連絡を取って、今では、ちょくちょく会うようになったとのこと。


久遠さんは、僕の手を握る。


「本当に、めぐむさんに勇気をもらったおかげです!」

「そっ、そんな……」


僕は、照れて頭を掻く。


「めぐむさん、本当にありがとうございました」


ユヅキさんも僕のもう一方の手を取り言った。




久遠さんは言った。


「めぐむさん、写真より、お綺麗ですね」

「そっ、そうですか? ありがとうございます」


「めぐむさんは、本当に男性なんですか?」


ユヅキさんが言う。

最高の誉め言葉に、僕は思わず口元が緩む。


「はい。ちゃんと、ついています!」


冗談っぽく言ったつもりだったけど、ユヅキさんは恥ずかしそうに頬を赤らめた。


しまった……。

口を押える。


この人は大人だけど、純粋な人なんだ。

僕は申し訳なく思って反省した。


しばらく、久遠さんとユヅキさんの話を聞いていた。

ユヅキさんは僕の想像通り。


大人しくて、優しそうな性格。

でもしっかりしていて芯は強そうな人。


笑顔が可愛くて、僕もキュンとしてしまうほど。

なるほど、この笑顔に久遠さんは、参ってしまったんだ。


僕は、心の中でほくそ笑む。


話が途切れた。

久遠さんは、ユヅキさんに目でサインを送っている。


ユヅキさんは口を開いた。


「あの、お願いがあります。めぐむさん」


改まった口調に、今日、ここに呼び出された本題だと予感した。


「はい」


僕は、気を引き締めた。




ユヅキさんのお願いは、女装を教えてほしい、ということだった。


最初、僕はあっけに取られた。

でも、話を聞いているうちに、なるほどと思うようになった。


どうやら、ユヅキさんは、まだフーカ君とは会っていないらしい。


それで、どうやって接すればいいかを二人で相談したところ、ユヅキさんは新しいお母さんになったらどうか、ということになったのだ。

でも、女装なんて、どうすればいいのかわからない。


そこで、僕の出番。

女装が得意な知り合いがいたことに気づいた久遠さんは、僕に連絡した。


ということだ。


「でも、ユヅキさん。たまにの女装ならいいですけど、お母さん替わりといったら、ずっとですよ」

「はい。覚悟はできています!」


真剣な目つき。

きっと、何度も話し合った結果なのだろう。


そして、私生活を犠牲にしても久遠さんを愛している。

そんな覚悟の上なんだ。


「今日は、買い揃えたものを一式もってきています」


ユヅキさんは、大きな紙袋を指さす。

久遠さんが言った。


「今日、フーカが小学校から帰ってきたとき、ユヅキを紹介しようと思っています。めぐむさん。これから、一緒に僕の家に来て、ユヅキの女装を手伝ってもらえないでしょうか?」


「それは、いいですけど……」




中央駅の駐車場から車に乗り込み、久遠さんの家に向った。


ユヅキさんは初めて来たようだ。

なんだか、そわそわして落ち着かない様子。


そんなユヅキさんに、久遠さんは優しく声をかける。


「大丈夫だよ、ユヅキ。今日からここが君の家になるんだ」

「ええ、でも……」


「フーカの事かい? 大丈夫。フーカは君の事を気にいると思う」

「ありがとう、徹さん……」


二人は固く手を握り合っている。


うん。

こう見ると、とってもお似合いのカップル。


別に女装なんてしなくても……。


「めぐむさんも早く入って」

「はーい」


僕は、二人の後について家に入った。


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