異常性スペクター

佐々木野原暁

第1話 孤独に死にたい。


死のうと思っていた。どうやって死のうか。いや、どうせ死ぬのだから、どの様にして死のうとどうでもいいではないか。いや、しかし痛かったり、苦しかったりするのは嫌だな。


それって本当に死にたいのだろうか?


そんな風に思っていた夏。祖母が亡くなった。

しかし、困ったことにあまり悲しくなかった。

葬儀で周りの人が啜り泣く声が聞こえて来る度に、自分が正常ではないと言われてるような気がした。しかし、そんな感覚にも慣れた。


どうでも良かった。心底。

いや、どうでも良いは過剰な表現かもしれない。

祖母に連れられて行った駄菓子屋の思い出だとか、戦争の体験談からFPSゲームをするんじゃないと怒られた思い出とか、正月のお年玉がケチだったなだとかその程度の記憶を回想する事はあった。


しかしそれらの回想も一時で、何故俺は硬い背広に袖を通し、眠たいお経を聴いて、良くも知らない親戚に頭をペコペコ下げて、疲れたと呟きながら倒れるように寝ないと駄目なんだ。


何故こんなにも俺の周りの人は悲劇を悲しむことが出来るのだろうか。

どうせ一週間もすれば何事もなかった様に日常に回帰する癖して。


そんな感情のほうが勝っていた。


そんな事を経験すると、何だか死ぬのが馬鹿らしくなった。

元々、何か辛いことがあって死のうと決意した訳でもない。

いや、決意と言う程本気でもなかった。

虐められただとか、大切な人を亡くしただとか、そんなだいそれた理由ではない。

まぁ、強いて言うのであれば何もなさすぎるから。ってところだろうか。

生まれた時から一度たりとも本気になったことがない。本気になろうと思えない。

別に「俺本気出してねえから。人生こっからだから」みたいな所謂ピーター・パン症候群的な思考ではない。寧ろ俺は本気でなにかに取り組む人を尊敬している。


ただ多分、人よりも共感能力が低すぎるのかな。皆の普通は自分にとって普通じゃなくて、皆が本気になれる事に本気になれない。ただそれだけなんだと思う。部活も、受験も全部適当にやった。そんな事心底どうでもよく思えて。


そんな下らないことより俺は目の前のアニメやゲームのほうがよっぽど大事に思えて。あぁ、ゲームやアニメには本気だったかも。じゃぁ、嘘か。


ただ、まぁ、こうして葬式に参加してみて思うのは俺が死んで、言う程悲しくもない癖にその場のムードに流されて、泣いたり、悲しんだりする自己満足の標的に成るのは嫌だな。と思った。どうせ死ぬなら一人がいい。


だから一人になれるまで生きようと思う。

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異常性スペクター 佐々木野原暁 @dalkantsubasa

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