第9話 それでも君は“彼女”より弱い

“総員、塔入口前を開けよ”


 『エルフ』達だけが識別できる笛――『耳笛』からその様な指示を受け、『聖獣』と『エルフ』達は一旦、アランとユキミから距離を取る。


「ん?」

「退いた? ビビったか」


 しかし、完全に退却する様な動きじゃない。一旦距離を取り体勢を立て直す退き方だ。『エルフ』どもの戦い方は素人同然だ。

 正確な射撃とサソリに鳥女は強力な排除能力だが、戦術と言うモノがまるでない。

 まぁ、今までそんな必要は無かったのだろうが……能力で圧してくる奴らなんぞ怖くもない。搦め手もないのなら簡単に処理――


「――――ユキミ! 俺の背後に回り込め!!」


 ふと塔の入口を見ると、キランッと光った瞬間――


「『ブレイカー』!!」


 アランは自らの大剣『ブレイカー』を能力解放。塔の奥から飛んでくる“光線”に刃の側面を向けて盾の様に受け止める。


「っ……なんだぁ!? こりゃあ!?」


 『ブレイカー』に弾かれて周囲に散る“光線”は飛来先を破壊し、距離を取っていた『聖獣』や『エルフ』達にも少なからず被害を生む。


 次第に細くなっていく“光線”は五秒ほどの照射を終える。そして、塔からソレを放ったモノが出てきた。


 中腰で前屈みの姿勢。丸太のように太く長い腕。仮面のようにのっぺりとした顔は口の用な穴と丸い片眼に光が宿る。

 小山の用な体躯と重々しい重心を感じさせるソレは全身が金属の皮膚で覆われており、明らかに“生物”ではない見た目をしていた。


「今の攻撃はアイツか」

「『アーティファクト』かな? 『遺跡内部』で似たようなモノを見た事があるよ」

「お前、色んな所に行ってんなぁ」


 ドッ! と金属のソレは踏み込むと巨大な腕をアランとユキミに振り下ろす。






 『スケアクロウ』が動いている所を見るのは『エルフ』達も初めてだった。

 ゼウスを捕獲する時に機能停止していた一体が居た為に持ち帰り、ここ100年間分析を続け起動にまで漕ぎ着けたのだ。


 『スケアクロウ』は【原始の木】を護る四体の守護者。世界の創世記より数多の敵を退けて来た。

 その力は一国の軍隊を上回り、何人も倒すことが叶わない。故に【原始の木】に触れる事は誰にも出来なかった。

 まだ『エルフ』の解析は二割程度だが、それでもこの場を覆すには十分過ぎる戦力だ。


「意外と速いね」


 アランとユキミは『スケアクロウ』の踏み込みと振り下ろしを左右に散って避ける。

 『スケアクロウ』は、キュイン、と顔をユキミへ向け、アランへは腕で殴り付けた。


「テメェ、首の角度どうなってんだ!?」


 アランは『ブレイカー』で『スケアクロウ』の打撃を受けるが、その威力に衝撃波が生まれ大きく後退する。


 無造作に殴った威力じゃねぇ……


 余波の衝撃波が気管を傷つけたのか吐血。片膝を着く。

 ユキミへは向けた顔の口部より、カッ! と光が生まれると“光線”が照射された。






「やっぱり、君か」


 ユキミは“光線”を横へ動いてかわす。これが初見だったら反応が遅れたかも知れないが、一度見ている技は食らわない。


「――それでも無傷とは行かないね」


 “光線”は大地を溶かし、避けたユキミの服を軽く焦がして火傷を負わせる程の熱量を含んでいた。食らえば間違いなく即死。

 『スケアクロウ』は首を動かすとユキミを追う様に“光線”を横に振る。


「ソレは安直過ぎるよ」


 逆にユキミは『スケアクロウ』へ踏み込んだ。大きな体躯は高い耐久性を持つがその分、懐の死角に潜り込み安い。


「【玄武】『絶壊』」


 『スケアクロウ』の打撃を遥かに上回る一撃は、踏み込みを修正した10割の『絶壊』。並みの存在ならバラバラに吹き飛ぶ――のだが、


「はは。なるほど……世界は広い!」


 『スケアクロウ』は僅かに後ろに下がっただけだった。“光線”の照射が終わり、口部が閉じる。『スケアクロウ』の腕が下から掬い上げる様に地面ごとユキミを吹き飛ばした。


「君みたいな存在がまだまだ居るのかい?」


 ユキミは直撃を避けつつ土で眼が潰れない様に腕で覆う。『スケアクロウ』は距離を詰め追撃を始めた。


「その大きさで動きも速い」


 こちらの倍はある体躯で機動力は互角。

 それでも振るわれた腕を取り、威力が生まれる前に『白尾』にて体勢を崩そうとするも――


「腕の力だけで振ってるのか」


 『スケアクロウ』は生物の様に自らの重さを使って“勢い”を生んではいなかった。

 重心は常に腰下へ向けられており、無造作に振るう攻撃が周囲を破壊する程の威力を纏っているのだ。


 体勢が崩せないんじゃ【白虎】は全部封じられた。もっとも威力のある『絶壊』が効かない以上【玄武】も【朱雀】も無意味。【青龍】を使うには相性が悪い――


 『スケアクロウ』の攻撃を避けつつユキミは試行錯誤を練る。


 凄い……四大系統の基礎がスペックだけで全部封じられた。“彼女”以外に、そんなモノがこの世界に存在していたなんて――


 ユキミは足を止めると一度、呼吸を整える。そこへ『スケアクロウ』は腕を振り下ろした。


「それでも君は“彼女”より弱い」


 【白虎】×【玄武】――

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