第7話 キャハハハ!!
「急げ! 塔の前まで制圧されたぞ!」
「下等生物風情が! 射ち殺してやる!」
「調律員が『聖獣』を放つぞ! 距離を見誤るなよ!」
ドタドタと塔の近くの屯所から武器と矢束を抱えるエルフ達が走る。
「エリーヌ、エドガー」
「どうしたの?」
「なにか用か?」
エリーヌとエドガーも、アランとユキミの排除に向かう所をエグサに引き留められた。
「お前達はあまり前に出るな。後に『スケアクロウ』が行く」
「下等生物二匹は、かなりの同胞を殺している。我々の手で仕留めるべきだ」
「フランツを殺したヤツを俺が殺す」
「確かにお前達が矢を射れば出ればすぐに片付くが……長は近々『長老会』を考えている。その際に『スケアクロウ』を見せる事からも今回でその動きを見ておきたいそうだ」
『スケアクロウ』はこのエルフの部族が手に入れた最も優れた知識だ。他の部族では到底得る事の出来ない“叡智の欠片”でもある。
それを証明する事で自分達の部族が『長老会』で主導権を握る事を考えていた。
「けど……」
「フランツの仇は……」
「気持ちは解る。私もフランツを殺したヤツをこの手で殺してやりたい。だが、今は『ゼウスの覚醒計画』の主導権を部族が得る事が何よりも最優先だ。その為に少しでも可能性を増やしておかなければならない」
「……わかったわ」
「……仕方ないか」
「私も後で行く。下等生物が逃げぬ様に牽制に留めるのだぞ?」
ガラガラと崩れる高台を見ながらアランは大剣を肩に担ぐ。
まだ生きているエルフ達は崩れた高台に押し潰された。
「ケッ、お粗末すぎるぜ。少しはインファイトを鍛えとけ」
「こ、この……下等生物……グエッ!?」
高台の瓦礫に埋もれてもまだ生きているエルフをアランは大剣でトドメを刺す。
「アラーン、こっちは終わったよー」
隣の高台では上にいるエルフ全員を死体にしたユキミが手を振っていた。
「所詮は遠距離からチクチク撃つだけの奴らだな。やってる事が俺らとあんまり変わんねぇじゃん」
「だよねー、弱すぎるのは問題ー」
アランは改めて塔の入り口を見る。
中に突撃しても良いが、大剣は室内だと不利で内部の構造も解らない。敵も弓矢が制限されるが、罠の可能性も考えると、大剣を振れる外で迎撃するのが吉……
「ゴーマのヤツは上手くやってんのか?」
別行動のゴーマにはゼウスの確保を頼んである。自分達は体の良い囮役だ。
「今のところ、敵に僕達以外を対処してる動きは無いよ。良い感じに彼は動けると思うけどね」
「ケッ、アイツはそれしか取り柄がねぇんだ。きっちり仕事はこなしてもらわねぇとな」
まぁ、この程度なら全滅も難しく無さそうだな。
その時、塔の奥からゾワゾワする気配が近づいてくる様を感じた。
「やっぱり、ナニか居やがるか」
「わぁ、楽しみー♪」
ユキミもその気配に興味を持ち、高台から入り口を見た。
塔の入口――奥からズルッと現れたのは巨大な蠍の化物だった。甲殻には模様が描かれており、脈動する様に光が明滅を繰り返している。
「デケーサソリかよ」
「【玄武】で行けそう」
自分なら一撃で仕留められる。アランは前に出ると――
「キャハハハ!!」
「!!?」
唐突に上空から無数の『刃羽』が降り注いた。咄嗟に大剣でガードし、ユキミは自分に当たる物だけを弾く。
「っ! うるせぇのは誰――」
と、視界を開けた瞬間、肩を掴まれたアランは空高く連れて行かれた。
「あ」
「――は?」
「キャハハハ!」
見上げると『人族』の顔に鳥の身体をした魔物がアランの身体を高々と持ち上げていた。
『聖獣』スコーピオン。
『聖獣』ハーピー。
『エルフ』が数多の生物を掛け合わせて魔法で創り上げた『聖獣』である。
「キャハハハ!」
アランの体重は百キロを越える。ソレを軽々と持ち上げる『ハーピー』は笑いながら塔を回るように上昇を続けた。
「高音で笑うな! うるせぇだろうが!」
掴まれた状態でアランは『ハーピー』を仕留める様に大剣を振るい上げる。しかし『ハーピー』は、ぺっ、とアランを宙に捨てると大剣は空を切った。
「チッ!」
アランは塔の壁に爪を立てて落下の勢いを殺し――
「キャハッ!」
「!」
『ハーピー』がアランへ突撃し、落下の勢いを加速させる。アランは高台の瓦礫へ彗星の如く叩き落とされた。
「上げて落とす。実にシンプルな殺害方法だね」
地面が流動する。
『土魔法』の発動を感じたユキミはその場から動くと『砂刺』が地面から勢い良く現れる。
『スコーピオン』による『土魔法』は相手の動きを制限する為の布石であり、
「――サソリ君はただの魔物じゃないね」
本体が敵を仕留める。
『スコーピオン』は口から網のように糸を吐くと、ユキミは変則的な歩法にてソレを回避。
「【朱雀】『地脚』」
しかし、避ける先を制限するように地面がボコボコと『土魔法』で変異する。
「面白いね」
少し地形を見る為に脚を止めた瞬間、コの字に『土壁』に囲まれ退路を断たれる。
そこへ、『スコーピオン』の巨大なハサミがハンマーの様に振り下ろされた。『土壁』ごと叩き潰すつもりだ。
「【玄武】『一門』」
ユキミは背撃で『土壁』を破壊すると囲いから脱出。ハサミハンマーは『土壁』を粉々に破壊し土煙が舞う。
「――」
『スコーピオン』は側面からヒュッと接近するユキミへ、ハサミを振るい土煙ごと吹き飛ばす。
「【白虎】『白尾』」
丸太を振り回すような勢いのハサミが当たる瞬間、ユキミは手を添えて軌道を僅かに上に変えると上空を通過させた。
そして、『スコーピオン』の懐へ入ると――
「【玄武】『絶壊』」
ドンっ! と周囲が揺れる程の“震脚”が生む威力をそのまま身体を通して腕に。突き出される両手の平から『スコーピオン』へ衝撃が叩きつけられる。
『スコーピオン』の巨体が浮かぶ。しかし、その硬い甲殻と重量から、少し浮いて下がる程度に留まった。
「物理的な防御に加えて『防護陣』も重ねられてるなぁ。でも」
『スコーピオン』の甲殻にビシッと亀裂が入る。
「僕の【玄武】はその程度では防げない」
『土魔法』で“震脚”の足場も悪く、威力は4割減だったが思った以上に――
「僕もまだまだだ。今ので君を仕留められないのなら“彼女”へはまだ遠い」
「キャハハハ!」
「…………」
『ハーピー』も上空からユキミを見る。
二対一。それでもユキミの表情は一点の陰りはなかった。むしろ、二対とも相手をして仕留めることを考えている。
その時、高台の瓦礫が『ハーピー』へ飛来する。『ハーピー』はキャハッ! と回避。
瓦礫を投げたのはアランである。
「あ、生きてた」
「このクソ鳥女が……殺す」
アランは軽く額から血を流しつつ、怒りの眼で『ハーピー』を見上げた。
「あ? なんだ、ユキミ。お前【武神王】を倒すとか言ってる癖にそんなサソリに苦戦してんのか? 俺なら一撃で叩き斬ってんぞ」
「力の配分を見誤った。でも、次は仕留められるかな」
「なら、そっちは任せたぜ。俺はあの、キャハハハ鳥女を殺る」
すると、近くの建物の屋根や影から無数の殺意が二人に向けられる。
「チッ、もたもたし過ぎたか。ザコの援軍が来たな」
「ま、目の前に集中で良いと思うけどね」
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