第6話 マジでイカれてやがる

「ん?」


 ゼウスを確保後、エルフの街は長の指示の元、警邏と哨戒に人員を増やしていた。

 『ゴブリン』に侵入され、あまつさえ叡知ゼウスを連れられる所だった。

 下等種族にしてられたと言う事実は『エルフ』達にとっては汚点であり、次にゴーマを見つけたら殺した後に見せしめとして死体を人間の街へ晒す事を考えている。


「おぉい……頼む! 助けてくれ!」


 すると、街の入り口方面からフードマントの二人組が歩いて来た。一人が一人を支えて歩いており、怪我をしている様に調子が悪い足取り。必死に助けを求めているようだ。


「……」


 門の物見櫓から二人を視認したエルフは弓を構えると矢を引き絞る。

 長から、同族以外がやってきたら全て殺せと言われているのだ。健全な方の頭を狙い、ためらい無く矢を放った。


「マジでイカれてやがる」


 正確な狙い故に、首を傾けてアランは矢をかわす。その際にフードが捲れて蜥蜴の顔が露になる。


「! 化け物!」

「うるせぇ!!」


 次の矢を絞ろうとしたエルフへ、アランは腰の剣を引き抜くと全力で投擲。それはエルフの身体の中心を貫き絶命。そのまま街の内側に落ちて行った。


「アラン。感情的になりすぎじゃない?」


 弱い相方を演技していたユキミは、副武器を躊躇い無く投げたアランに呆れる。


「正当防衛だ。なにも言わずに矢を放つヤツらの方がイカれてるぜ。オラ、とっととゴーマの言ってたヤツを拐って帰るぞ」


 その時、街の中から悲鳴が聞こえる。落下したエルフを見られたのだろう。警鐘を鳴らす暇もなかったのか、その悲鳴が代わりになった様だ。

 二人は悠々と歩き、開いた門の内側に入ると事態を見たエルフが魔石でどこかへ連絡を取っている。


「アラン」


 ユキミは、エルフの死体から剣を抜くとアランへ投げて渡す。


「おのれ! 下等生物が! よくも……フランツを!」


 駆けつけたエルフが弓を撃つ。的確な射撃はユキミの顔を狙っていた。


「殺したのは僕じゃ無いんどけどね」


 しかし、パシッと、物を受け取る様にユキミは音速で飛来する矢をキャッチする。


「殺ったのは隣の彼だよ?」

「うるせぇな。どうせ、これからお前も殺る予定だろ。そもそも、殺しに来るヤツを殺らずに済ませられる状況でもねぇしな」

「それもそうだね」


 すると、近くの建物から矢が飛来する。見ると無数のエルフ達が見下ろす様に二人の包囲を始めていた。


「まぁ、オレらが下等生物って言うのはいいけどな。そんなオレらに殺られたヤツは、下等生物以下だぜ?」

「残念。この程度じゃ、“負け”られ無いなぁ」


 アランは片手で大剣を振るって風圧で矢を弾き、ユキミは矢の側面を素手で打ち落とす。


「オラ、かかって来いよ」

「弱いって不便だよねー」


 クイっと指を動かして挑発するアランとユキミに、プライドを刺激されたエルフ達は、二人の排除に全力で応じる。






「騒がしいな」


 エルフの長は飛び交う“耳笛”の音を聞き、なにかを伝え合っている様子を塔の執務室で聞いていた。

 その時、テーブルに置いてある魔石から声が聞こえる。


『長。侵入者です!』

「また、低俗なゴブリンか? いちいち報告せずとも良い」

『違います! 『人族』と『蜥蜴人リザードン』の二名! 見張りのフランシスを殺し、正面の門から堂々と入ってきました!』

「戦士長に通達し指示に従って包囲殲滅せよ」

『す、既にやっています! しかし、あの下等生物二匹は――グェ…………おーおー、何だコレ、コレで会話してんのか?』


 すると、話し先から同族以外の声が聞こえる。


『誰に繋がってるのか知らんが、向かってくるなら皆殺しだぜ? 俺らの要求は一つ。物知りな――ユキミ、ゴーマのヤツ何て言ってたっけ?』

『ゼウスだよ』

『そう、ゼウスっつーガキだ。大人しく引き渡せ。死体の山がこれ以上積み上がる前にな』

『あの塔じゃない? アラン』

『行ってみるか。って事だ。上役のヤツに伝えろよ』


 そこで、魔石は捨てられたのか、侵入者の声は遠くなり、同胞の悲鳴が聞こえてくる。


「…………調律員聞こえるか?」


 長は別の魔石に通信を繋いだ。


『はい。聞こえております』

「侵入者だ。同胞が何人も犠牲になっている『聖獣』を全て放て」

『わかりました』

「後、『スケアクロウ』もだ」

『! アレはまだ解析が進んでおりませぬ! 起動しても本来の二割も実力は出せません!』

「構わぬ。これ以上、下等生物二匹に好き勝手させるな」

『……わかりました』






「うーん。少し面倒だなぁ」


 ユキミは壁に隠れてエルフの精密射撃に足を止めていた。

 塔の周辺は遮蔽物が少ない為、流石に身は晒せない。それでいて、塔に隣接するようにある高台は防衛には完璧な配置だ。


「ユキミ」


 と、ユキミはアランに呼ばれて彼を見ると少し離れた遮蔽物から背の大剣を寝かせて構えていた。こっちに走れ、と顎をクイッと動かす。


「あはは。良い作戦だ!」


 何をするのか理解したユキミは遮蔽物から飛び出してアランへ走る。エルフの矢が追うように飛来するも、ソレが追い付くよりも先に大剣の側面に足をかけ、同時に振り抜かれた事で空中へ打ち上げられた。


「やはり下等生物か! 死ね!」


 空中で身動きの取れないユキミへ矢が一斉に放たれる。


「『音破』」


 しかし、ユキミは両手の平を打ち付けると音魔法『音破』を発動。発生する衝撃波が矢の勢いを緩める。


「『甲体』」


 勢いが弱くなった矢は表層を硬質化したユキミの身体には通らずに彼は高台の上に着地した。


「くっ! おのれ――」

「弱いなぁ」


 一番近いエルフの身体を打ち、内蔵を破壊。その死体を後ろに投げつけて、更に距離を縮めつつ残りを始末していく。


「あっちは――」

「オォォォラァ!!」


 アランが下の土台を大剣で破壊して、高台もろとも破壊していた。


「あっちも問題ない無さそうだね」


 全然、強くなれないなぁ。

 ユキミは制圧した高台からアランに、終わったよー、と手を振った。

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