第10話

I've decided that

I didn't like anything

but now I've be change my mind


 風が心地よかった。

 それだけですべてに満足していた、なぜなら私は、もう何も望んでなどいなかったのだから。

 海岸線が見える、ここはいつも誰もいなくて、だからこそお気に入りの場所であった。

 しかし、そんなことすらどうでもよかった。

 私は、今この小さな箱を手にしている。

 この中には、全てが詰まっている。

 必要なもの、必要ではないもの、あってはいけないもの、そういう類のことも、全て。

 「…昼飯は何にしようか。」

 一日中こうやって、歩き回っていると食べることばかりが頭の中に渦巻いてしまう。これを健全というのか、私には判別ができない。

 しかし、今思えば誰かに何かを縛られていた頃に比べて、私はただひたすらに自由であったのだと思う。

 そして、手の中にしているこの箱を一瞬、開くかどうか逡巡して、しかし迷う事すらもったいないといった感じで、私はそれを投げ捨てていた。


 「ピピピピピピ…。」

 うるせえな。

 ち、朝から目覚ましなんかかけるんじゃなかった、こんなことしたって、起きたらめんどくさいことばかりがあるっていうのに、何なんだよ。

 俺はずっとキレていた。

 しかし、律儀にその音を止め、階下へと降りる。

 隣りの部屋で勉強をしている妹を起こさないように、気を使いながら生活をしていた。

 それは家族全員が強制されていることで、俺はあいにくもううんざりして飽きちまっていた。

 「ご飯置いてあるから。」

 母は、いそいそと支度をし、働きに出かけようとしていた。

 「分かった、あ、あとさ。今度何か、模試受けるって話になってて。悪いけどお金くれない?」

 「分かった、置いとく。」

 母は上機嫌になりながら、財布からお金を出した。

 しかし、俺の気分は晴れない。

 俺は、特に苦労して勉強などしなくても、試験に受かることができた。その事実を母が知ると、泣いてしまった。

 ずっと不良でやって来たからか、母は息子が立派になるかもしれないという期待に、感動を覚えているようだった。

 まあ、いいか。

 母に恨みなどないし、俺だって、別にすることなんか何もないんだ。

 そんなことを考えながら、パンをほうばった。

 少しだけ残しておいて、生活に困っている友達に、いつも持って行ってやっている。

 そいつは喜んではくれないけど、そういう一筋縄ではいかないところが一番好きだった。


 俺は、そしてそのままぼんやりと、外へ向かう。

 はあ、めんどくせえな。

 何してもめんどくせえよ、でも一日中家の中にいると腐っちまうんだ。

 俺は、健全の意味を、知ったから。

 一人でなんていられない。

 一人に何てなりたくない。

 もうどうでもよかった、俺は、だからそっと、荷物を持って、もう帰らないと決めたのだ。

 秒速で体がぐったりとしてしまう暑さにも慣れ、震える程寒いという温度にも適応できるようになり、今俺は、ぼんやりと家を作っている。

 木を切り、とかではなく。

 ガラクタばかりを積み上げて、その原型をつなぎ合わせるようにして、積み重ねていく。

 俺はそれを、ずっと繰り返していた。

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