第9話
スカートの下から見える膝には、いくつもの傷が刻まれていて、彼女が生きてくる過程の中で、過酷な事柄が多くあったことを如実に語っている。
「真紀子、来たよ。」
「うれしい。」
「うん、私も。」
彼女とはとにかく気が合って、お互いこんな山の中で暮らしているのだから、自然と友達になれた。というか、最初は助け合うという形であって、仲良くなるとか、そんなことではなかった。けれど二人で、肩を寄せ合うように情報交換や、物資の交換、分け合いなんてしている内に、随分と親しくなっていて、そしてこうやってたまにどちらかがそれぞれの住まいを訪ねるという暮らしを実行している。
「これ畑で作ったの、食べてみて。」
「めっちゃいい匂い、私さ、こんなところに住んでるけど自然が苦手で、畑とかうまくやっていけないんだ。多分、関心が薄いんだと思う。」
「はは、それは仕方ないよ。真紀子はあっちの方から仕事もらってるんだから、それでいいと思うし。これからここでできる仕事を見つければいいと思うし。」
「そうだよね。」
芳子は、私を否定することがない。
私は、この類の女に出会ったことが一度もなかった。
だから、こうやってラフに言葉を交わせるこの人の存在は、とてもありがたかったし現実的に助かってもいた。
「それでさ、この前の話どうする?」
「ああ、え?」
私はとぼけた。こういうことは、もうこりごりだったから。
「もう、お見合いだよ。地区長が押してくれたでしょ?ここで生きていくには、少なからずそういう関係は持っておいた方が、みんな安心なんだよ。」
「分かるけど、私振られたばかりだから。」
「………。」
芳子は黙ってしまった、けれどそれも当然だ。
彼女ももちろん私がこっぴどく男に対して痛い目に遭っていたことは知っている。けれど、それでも彼女は私に幸せになって欲しいと、前に語っていた。
「それよりさ、芳子の方はどうなの?20個も上って本当?おじさんって言っちゃ悪いのかな、でもいい人だと思うから。」
「何よそれ、馬鹿ね。おじさんでいいよ、本当におじさんなんだから。うん、すごく好き。大好きって感じ。」
芳子は照れていた、可愛かった。女って本当に可愛いな、とこの頃はよく思う。自分が男だったら、こういう女を一生養っていくことに幸せを感じるのだろうな、とか全く変なことばかりを考えていた。
つまり、私は少しどうかしているのかもしれない。
近頃、体調もすぐれず、一週間に一回は寝込んでしまう。
一歩も動けずに、芳子が介抱をしに来てくれる。そしてたまにはその20個上の彼氏も現れる。二人がそろうと、私はなぜか安心してしまって、ぐっすりと眠りこけ、体調は万全に戻っている。
はあ、一つため息が、空っぽの部屋にこだました。
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