第8話

 適当な嘘ばかりついているとあなたは私を糾弾した。

 「だからさ、分かったよ。もう何も言わないから、放っておくから。」

 嫌そうにその場を切り上げようと、言葉を険しく鋭く、私に向かって投げかけている。

 要らないのよ、そんなこと。

 一人きりになった部屋で、私は茫然と突っ立っていた。

 どのような体勢になればいいのかすら分からなかった。

 あなたがいなくなるまでずっと、そうしていた姿勢のまま深く深く何かを考えていたのだと思う。


 「無茶苦茶だってこと知ってるんでしょ?じゃあ、やめなさい。」

 強い口調が降ってくる。

 母はいつもこのような話し方をしていた。何かを決めつけて、はっきりと否定するかのような態度は、私の心を惑わせた。

 ああ、めんどくさい。

 こんなことだったらずっと、どこにもいかないで一人でいればよかったんだ。

 翔とは別れた。

 翔は私よりもずっと、運命だとかいう女と出会い、どこかへ行くのだという。

 なんだそれ、と口から出かけたが、押し込んだ。

 そんなこと言ったって意味などない。私は、至極冷静になり、いや、なったつもりだったはずだけど、なぜか別れ話になるともめてしまった。

 したくないことがたくさん世の中にはあって、私はいつもそれにほだされている。

 でも、別に良かった。

 だって私はもうここからは出ていくことにしたから。元々、人がたくさん住んでいるような場所は苦手だ。そもそも、そういう環境では誰かに配慮をするのは当たり前で、単独で行動できるようなものではないはずなのに、なのに、私はいつも一人だった。

 翔とも、終わりになってしまうのなら、今はここから出ていくことしか考えられない。

 こういう発想って、危険思想っていうか、そういう風に思われるらしいけれど、実は結構いて、みんな集団では無かったら暮らせるような場所を確保して各々生きている。

 私にはそんなことを成し遂げる自信はこっれっぽっちもなかったけれど、今はそれだけが希望だった。

 身支度をし、部屋を出る。

 使い慣れた家具だけがそこにあり、馬鹿みたいに大の字になって寝ている翔がそこにはいた。

 寂しい、とか虚しいとか、思ってくれるのだろうか。

 そんなことを少しだけ、心の中の恨みであるかのように考えていた。


 「着いた。ここだ。」

 目的地は決めていた。

 そこから少しずつ必要なものを探すことにしている。

 とりあえず、私は仕事をも持つことができた。だからたまにあそこへ戻れば最低限のお金は手に入る。

 もしくは、本当にダメになりそうだったら違う町を目指せばいい。

 世界は広いのだ、そんなことは常識として知ったつもりになっていても、本当は何一つ分かっていなくて。

 私は腰かけた石の、冷たさを感じていた。

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