第6話

 けど一人、気になる人間がいた。

 そいつは、明らかに異常をきたしていた。

 きっと本人は気づいていないのだろうが、それは壊れた俺たちの、仲間だった。

 

 「マジかよ、いつなんだっけ?かなり前なんじゃないか、聞いたことはある。仲間がここに探索に来て、そしてそのまま帰ってこれなくなったってこと。」

 「誰か助けに行かなかったのか。」

 「分かってるだろ?今、本当に働き手がいないってこと、命なんか賭して、どうするんだよ。」

 「それは…。」

 誰も答えられなかった。

 真顔になってしまった。

 しかし、俺はすでに決意している。

 「拾ってくる。」

 「え?」

 「やっぱり、放ってはおけないし。」

 「はあ?やめろやめろ。」

 大反対だった、しかしそれはすでに承知済みだ。

 「とにかく、拾ってきたら手伝ってくれよ。」

 そう、だからそれだけを皆に伝えた。

 それだけ、本当にそれだけを。

 「バタン。」

 反論は聞きたくなかったから、すぐにその場を後にした。


 「え、何?」

 「来い、いいからさ、早く。」

 ちょっと何言ってんだよこの男。見た目も明らかにヤンキーだし、絶対殺される。

 はあもういい加減にしてくれよ、こちとら死ぬ気で働いているっていうのに、誰なんだよ。

 全身から一気に毛が逆立っていくような、そんな気持ちの悪さを感じていた。

 イケメン、と言ってもよさそうな顔なのに、表情がおかしい。何か、どっかが壊れてしまった人であるかのように、その顔には表情があまりなかった。

 「………。」

 急いで走り去ろうとすきを窺った。

 なのに、

 「わ。」

 腕を掴まれてしまった。この腕力は何だというのだろうか、教えて欲しい。

 「黙ってついて来いよ。」

 その顔に多少なりともあった友好的な表所は無く、ただ無機質な絶望だけが広がっていく。

 意識が、無くなったのはなぜだろう。

 私は途端に、目の前にあるものが分からなくなった。


 「連れてきちゃったの?」

 「ああ、頼む。」

 「まあいいけど。この子の記憶は?操作したの?」

 「少しな、ちょっといじっただけでやっぱり変わった。だから、驚いたよ。いかにも人間って感じなのに、やっぱり俺たちの仲間だったんだ。」

 「そうだよな。」

 みなでうんうんと頷き合っている。

 俺たちは、生きなくてはいけない。生き残らなくてはいけない。

 そこにはきちんとした明確な理由があった。

 「僕たちは、あの人の言うとおりにしなくては、ダメなんだろう?」

 「当たり前じゃないか、あの人は絶対で、俺たちは違う。」

 不安そうにそう尋ねる奴を見て、俺は不快な気持ちを隠せなかった。

 みんな分かっているんだ、だからこそ嫌がっている。

 けれど、ダメなんだ。

 俺たちは絶対に、生きなくてはいけない。

 

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