第5話
車道を走る車を眺めている。
突っ立っている俺に、構う人はいない。だが迷惑そうな顔を浮かべ、こちらを伺っていることは分かった。
「ち、面倒臭せえな。」
ポッケから煙草を取り出し、火をつける。
しかしうまく着火しなくて、それごと床に落として去った。
街道を歩きながら、俺はいつもより速足で歩いている。
臭くてたまらなかった、排気ガスとか、人間の何か、生きている匂いとか、そういうものが全部うっとおしくて仕方がなかった。
「…分かってるよ、帰るっつってんだろ?」
スマホに連絡が入っていたから、俺は適当に返信をした。
ここに来たのは、結構前だ。
俺は落とされたのだ。
色々な場所があるっていうのに、選ばれてしまった。ホント、いい加減にして欲しい。てか、理由は単純でさ。こいつら、人間って俺たちに似ているんだ。
だから、そこが嫌で嫌でたまらなかった。
しかし帰ることはできない、許可など下りるはずがない。
きっとあと何年も何年も、この何もないという事実を繰り返しながら、俺は死んでいくのだろう、と踏んでいる。
「チロリン。」
可愛らしい着信音が設定されている、これは最近知り合った人間の女が、これを買った時に設定してくれたものだ。
あまりにも馬鹿な奴であるかのように、そいつの話にうんうん、と頷いていたから、彼女も気を大きくしたのか、嫌な顔をしながら笑顔になっていた、奇妙な俺を見ながら笑っていた。
素直じゃない奴、と言われていた。
そして、だからこそあそこは追い出されてしまったのだ。
別に、居心地が悪かったわけじゃないし、そもそも俺はそこで生まれたのだから、そこで生きて死にたかった。
けれどそれは許されない、だからここで、ただ時間を持て余すように生きなくてはいけない。
誰かから何かを剝奪することは簡単で、しかしそれに付随する現実のことなど、彼等には映らないのだろうなと思っていた。だって、だってさ。
「はあ仕事かよ。」
「行くか。」
生きるための術だって、ここに合わせて調整しなくてはいけない。なぜなら俺には何かをくれる人などいないし、だからこそここで働いて生きていくしかない。
つまり、俺はもうここの人間になったと言っても過言ではないのだろう。
「なあ、何でまりおのやつあんな汚いところに送ったんだよ。いくらやんちゃだったからってさ、そんなの当てつけみたいだし、やり方が汚いって、思うんだけど。」
「………。」
「…ちょっと答えにくいよね。まりお君は素行がよくなかった、だから査定に響いた。けれど、みんなのうちの誰かがあそこにはいかなくてはいけなかったんでしょ?」
「まあ、そうだね。」
「そう、きっとこれから私たちはあそこを目指すことになるんだと思う。こういう、社会が発展していて、うまく文化的に生きられる場所って減ってきてるから。」
「はあ。」
皆がため息をつく、それ程状況は深刻だった。
笑いながら嫌味を飛ばし合う、そんな関係性はここには無かったはずなのに、皆どこかしらで学んできたのだという。
でも、それはそれで面白い。
私たちは、そういうものを理解して、成り立っている。
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