第29話 天と地ほど

 職員室から出たときには、もう面倒くさいから、今晩中に髪は黒く染めると固く決意していた。学校を出たらすぐにママに電話して、ヘアカラー買っておいてもらおう。


 佳奈は高校入学から帰宅部で、特に校内クラブには所属していない。授業が終わるとクラスの友達とちょっと話をするぐらいで、直ぐに自宅に帰ることにしている。


 本当は友達とファミレスにでも寄って、楽しく恋バナでもしたいけれど、これも残念ながら厳しい校則で禁じられている。


 「おい、佳奈。今日はもう帰るのか?」


 校舎を出てから校門に向かう途中で、後ろから声がかかった。後ろから優しく包み込むような声、もちろん誰だかすぐに分かる。3年生の城戸城司(きどじょうじ)先輩だ。


 「私は悪い子じゃないから、いっつも真っ直ぐに家に帰るんです」


 ちょっとふてくされた顔をしながら振り向いた。まるで日本人じゃないみたいに、彫りが深く日に焼けた姿が、太陽の強い日差しを真正面から受けて輝いて見えた。


 「どうしたんだよ、佳奈。ちょっとご機嫌斜めみたいだな」


 私の目の前まで、颯爽と歩いて近寄ってくる。目に沁みるくらい真っ白いテニスウェアを着た、まるでアイドルみたいだ。


 いくら拗ねたふりしても、城司の前ではつい微笑んでしまう。だってメチャクチャカッコ良くて素敵な先輩なんだもの。


 城司はテニス部の3年生。両親は生粋の日本人なのだが、まるでハーフのような整った顔立ちをしている。


 友だちと渋谷などに遊びに出ると、必ずいくつかのモデルクラブのスカウトから声がかかるほどだ。


 同級生の3年女子はもちろん、2年生、1年生の後輩女子からも人気一番のモテモテ男なのだが、本人はまったく格好をつけず、気取らず、爽やか青年そのもので、他校の女子からも憧れの的である。


 たいして勉強しているようには見えないが、頭が良く勉強はできる。学力テストでも常に上位1桁が定位置であり、教師からの評価も高く、来年の春には、国立大学への進学も確実と見られている。


 その大人気のアイドル学生城司と佳奈が、なんと付き合っているのだ。まあこの2人の関係を知っているのは、ほんのごく少数でいつもの佳奈の女子仲間と、テニス部の連中ぐらいだろうと思われるが・・・・・


 ちなみに佳奈は、中学では上位レベルの成績だったが、偏差値が高いこの中村高校には、かろじて滑り込んだレベルであり、校内順位では、下から数えたほうな早い下レベルの成績に落ち着いているようだ。なの


 同じテニスクラブの女子連中でさえも、城司と佳奈の2人のことをひそかに噂しているのを知っている。


 『もう城戸先輩、絶対にもったいないよ。なんで小林さんなの?』


 理由は分かっている。運動もバッチリ、頭も良くて、さらに性格まで良い校内一のイケメンの王子さまが、何も成績が悪い派手めな女の子と付き合う必要などないのに、ということらしい・・・・・

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