第26話 チーフ引退

 「おいおい、いつまでも2人だけで仲良くしてるなよ。まだ後ろにいっぱい並んでるんだからな。おい中村、早く代われよ。由美ちゃん、オレにも大盛り頼むぜ」


 2年生のまだ引き継がれたばかりの主将が、笑いながら声をかけてくれた。


 ありがとうチーフ、ありがとう主将。みんなはもうからかっていたことなどすっかり忘れて、カレーを口いっぱいに放り込んでいる。


 中村くんとのことからかわれて、死ぬほど恥ずかしかったが、でも本当は嬉しかった。だって中村くんも由美のこと庇って声をかけてくれたから。


 30分足らずで、お母さんたちが作ってくれた大鍋のカレーも、たっぷりあったご飯も、山盛りの唐揚げもほとんど姿を消していた。


 午後の1時までは食後の休憩時間である。居眠りをする者、仲間と互いのプレーを検討しあう者、合宿に持ち込んだプレーヤーで音楽を楽しむ者などみんな様々である。


 由美たちマネジャーの3人も、お母さん達が別にとりわけて残してくれていたカレーを、やっと食べることができた。


 「ふぅー、やっとひと息つけるみたいね、サブも由美も朝早くからお疲れさま」


 こんなに日差しが強いのに、なぜか全く陽に焼けないチーフが、カレーを口に運びながら二人に声をかける。


 「お疲れさまです。20人足らずだから普段より楽かと思ったけど、とんでもないですね。むしろメチャメチャ忙しい」


 サブマネージャーが、由美が考えているのとまるで同じことを言ったくれた。


 「ふふふ、本当に結構キツイよね。元気娘の由美は、まだなんとか大丈夫かな?」


 「はい、チーフ。まだまだ元気ですよ」


 中村の側にいられることが嬉しくて、疲れなんかまったく感じない。お腹もグーって鳴っちゃうほどで、カレーもしっかりおかわりしちゃった位だ。


 「やっぱり元気娘なんだね。由美に入ってもらって本当に良かった。でもね、サブと由美、そろそろ2人に話しとかなくちゃならないことがあるんだ」


 いつもハッキリものを言うチーフが、何となく言いにくそうに話し始めた。


 「夏の大会も終わって、選手たちも新しい体制を作るために、3年生は実質上引退しちゃったけど、我々マネージャーの方もこの夏合宿を終えたら、3年の私は引退しようと思っているんだ」


 チーフの突然の引退宣言に、サブも由美も言葉を失った・・・・・


 確かに選手達は新体制として2年生と1年生を主力とするチームに変わった。そうなると3年生はチーフマネージャー1人だけになる。


 主将も2年生に変わった今、主将より1学年上のマネージャーがいるのでは、チーム内のバランスが崩れてしまうのかもしれない。


 「それでねサブにチーフマネージャーを担ってもらって、由美がサブを務めてもらいたい。私なりにそう思ってるんだ。もちろん2人じゃ厳しいから、早急に新人マネージャーをできれば2、3人入ってもらって、2人の負担は減らして欲しいと思ってるけど、どうかな?」

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