第25話 からかわれちゃった
「ほら由美、ボーッとしてないで、みんなが汗を拭いてる間に、食事の準備だよ」
チーフからの注意に、我に返って慌てて体育館に走った。
食事は選手のお母さんたちが、順番でカセットコンロを持ち込んで、10時ころから作ってくれている。
体育館の中にはテーブルとイスが並べられ、テーブルの上にはお母さんたちの手作り料理が並ぶ。
今日の献立はカレーライスと鶏の唐揚である。カレーはまるで相撲部屋のチャンコ鍋のような大鍋にたっぷり、唐揚げも山のように盛られている。
白飯は当番のお母さんが、選手たちがいくら食べても足りなくならないように、たっぷりと炊いてくれていた。
飲み物は熱中症にならないように、冷たいスポーツドリンクと牛乳パック、これも選手の母親たちの好意により提供されている。
マネージャー3人は、選手たちの食事をサポートするのが役割になっている。
由美は選手たちが山のように盛り上げた白飯の上に、たっぷりとカレーをかける当番を担っていた。
「由美ちゃん、大盛り頼んます」
「オレは人参苦手だから、なるべく入れないでくれよ」
「おかわりできるのかな? 」
まるでみんな子供みたいなことを言う選手たち。日に焼けて真っ黒になった顔が可愛かった。
列に並ぶみんなの中に、特に真っ黒に日焼けした中村の顔が見える。
由美の前に中村が立った。ご飯はなんと、他のだれよりも山盛りである。
「めちゃくちゃ腹減っちゃってるんだ。ちょっと大盛り過ぎたかな?」
由美は嬉しかった。こんな中村の素直な顔をいつでも見れる。変に意識することなく声をかけてもらえる。
ちょっと照れ臭そうに笑う、中村の真っ黒な顔が眩しい。選手とマネージャーの関係からすると、当たり前のやり取りではある。
しかし由美は幸せだった。野球部に入部して本当に良かった。マネージャーになれて本当に良かったと思う。
「がんばったから、いっぱいサービスしちゃいます」
珍しく素直な気持ちが言葉に変わる。
「おー中村。ずいぶん贔屓されてるじゃん」
「由美ちゃん、惚れてるな」
「お似合いだぞ。おふたりさん」
2年生の先輩達が、ふたりのやり取りをからかいはやし立てる。
恥ずかしかった。顔が真っ赤になって体中から汗が吹き出しちゃった。
目の前の中村も恥ずかしそうにしていたが、真っ黒に日焼けしているため、赤くなっているかは分からなかった。
「みんなダメよ。由美はまだ新人さんなんだから、あまりからかっちゃあ。今、働き者の由美に辞められちゃったら、あたし達も潰れちゃうんだから」
チーフの助けが入ってからかう声は収まったものの、もう恥ずかしくって、カレーをそのままにして逃げ出したかった。
「おい、あまり気にするなよ」
まるで由美をかばうような優しい目で、そっと中村が囁いた。
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