第23話-野球部入部
「どうぞ」
ドアのノックの音に、部室の中から声がかかった。緊張しながらドアを開け入室。キレイだけど厳しそうな女性が2つあるパイプ椅子の1つに座っている。
野球部入部を頼んだクラスの男の子に顔つきが似ている。その子の姉さん、野球部のチーフマネージャーだと思う。
「こんにちは。木村由美さんね。どうぞ椅子に座って」
チーフの話を聞いた。サブが1人抜けることも。なぜ入部を希望するのかも。でもチーフには嘘をついた。
「子供の頃から野球が大好きなんです。ルールはよくわからないけど。でも本当に大好きなんです」
「そうなの。でもうちのマネージャーって、メチャクチャ大変な仕事なのよ」
「ハイ、でも私、何でもやりますから。それに私、元気娘って呼ばれてますから」
「元気娘ね、分かったわ。じゃあやってもらおうかな。監督とキャプテンには私から話しとく」
その日の夜はご飯3杯もおかわりしちゃった。父さんも母さんもビックリ。やったね。神様ってやっぱりいるんだね。ありがとう。本当にありがとう。
由美は野球の知識は全く無かった。サッカーはJリーグ贔屓チームのサポーターとして何回かピッチに応援に駆けつけたほどなのに。
本屋でなんべく分かりやすそうな野球ルールの本を購入して、1週間眠る時間も惜しんで必死に覚えた。
おかげて授業中に居眠りし、何回か先生に叱られてしまったほどである。
彼はセンターを定位置として活躍していた。まだ1年生ではあったが小学校、中学校と野球一筋で頑張ってきただけあって、監督からは目をかけられる優秀な素材である。
由美は初めは、なぜ彼がベンチから遠い位置にいるのか、その守備位置の名前さえも知らなかった。
1年から3年まで部員全体で70人位いる。全員の顔と名前を覚えるのも大変だった。
部室の掃除、野球用具のチェックや購入、修理依頼、練習試合の調整、等々仕事はそこらじゅうに溢れていた。
由美が野球部マネージャーとして入部して10日ほど経過した、陽射しが強い暑い夏の日のことである。
もう既に高校は夏休みに入っていた。野球部は夏の大会の地方予選大会を既に終えていた。
夏休み直前に西東京大会の4回戦まで勝ち進み、強豪校に4―3で惜敗していた。
この夏休みの合宿は、今後チームの主力となる2年生を中心とした選抜メンバー20人が体育館で宿泊し、チームワークを強化することを目的としていた。
月曜から金曜までの5日間の日程であった。由美が恋する中村はもちろんメンバーに選抜されていた。
マネージャーの3人は体育館に宿泊こそしないが、早朝6時には高校に集合し18時まで選手たちと共に行動する。
由美ももちろん合宿に参加していた。普段は70人程いる野球部メンバーのお世話をすることを考えれば、20人の選抜メンバーへの対応は、比較的余裕があるのではと多少甘く考えていた。
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