第21話 星の数ほど

 風太は男らしく水奈のことを諦める決意をしていた。心が張り裂けるほど辛かった。いや本当は風太の心は、もう張り裂け壊れてしまったのかもしれない。


 しかし男だから消せるはずのない水奈の優しい笑顔を、何度も何度も消そうと努力していた。


 未練がましくいつまでも水奈のことを想う気持ちは、惨めであったし情けなかった。だから水奈に開いた心の扉を自ら閉めた。閉めたつもりでいた。いや閉めようとしていた。


 なるべく水奈を見ないようにしていた。見ると心が揺れるし胸の奥がキリキリ痛むから。


 風太の水奈への想い、そして水奈の風太への想い。真正面から向き合い強く結び合うはずの愛は、何故か限りなく遠く手が届かない。まるで夜空で瞬く星のように・・・・・


 仲良しグループの由美は一度は振られたものの、相変わらず野球部の中村くんを忘れられずにいた。


 自分の気持ちをハッキリと告白したものの望んでいた結果は出せなかった。しかし彼への想いはまだ消えてはいないようだ。


 精一杯の勇気を出して、放課後、野球部の部室の前で中村くんを待ち受け、部室に向う彼に声をかけた。


 「あのーすいません。私、同じ一年の木村由美です。中村くん、もし、もし良かったら私と付き合ってもらえませんか?」


 中村くんは真っ黒に日焼けした顔をちょっと下に向けて、しばらくの沈黙のあと答えてくれた。


 「木村さん、気持ちはとっても嬉しいんだけど、ゴメン・・・・・ 悪いけどオレ今は野球に打ち込みたいんだ」


 そんなやり取りで終わったはずのふたりの恋は、まだ試合終了にならず延長戦に入っているようである。


 水奈、亜紀や由美と同じ仲良し女子グループの葵や佳奈そして美沙の3人には既に彼氏はいる。


 佳奈にはこの中村高校の先輩、3年生の男子生徒が、美沙には隣町にある不良高校と噂が高い黒星高校の生徒が彼氏と噂されている。


 そして仲良しグループリーダーの葵の彼氏は、既に20歳になる工員である。中学卒業後小さな機械部品工場の工員として働いている社会人である。


 生きているから、喜び怒り哀しみ楽しむ様々な人生がある。そして生きているからこそ恋に悩み、恋に憧れ、恋に破れ、恋に生きる。


 愛すること、恋することには年齢制限などない。職業の違いも家庭環境・生活環境の違いもない。


 大人も大学生も高校生もお年寄りも子供たちであっても、誰でもが恋の物語を綴ることができる。


 水奈も風太も亜紀も、由美も葵も佳奈も美沙も、それぞれの甘い夢や熱い想いを抱いて今を生きている。


 若者たちが育む恋の行方を知るものなどいない。実る恋もあり、散る恋もある。再び出逢う恋もあり、夢破れる恋もある。


 明日なんか分からない。しかし、今、若者たちのときめく熱い恋は、星の数ほど夜空で煌めいている・・・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る