第20話 夏、青春

 恋って素敵ですよね。淡い恋や燃えるような恋、哀しい恋や胸の奥をキュンと痛くするような切ない恋。現実の恋や夢の中の恋など、さまざまな恋がある。


 恋に恋する多くの若者たち。青春は恋の季節といえる、いや青春は恋そのものかもしれない・・・・・


 水奈や風太、亜紀が通う中村高校にも灼けるような暑い夏がやってきた。強い陽射しに街は白く光っている。夏服に着替えた生徒たちが、駅からどっと吐き出され校門へと向う。


 日焼けして汗に光る顔には、若さが輝き溢れている。躍動する動きそしてこぼれる笑顔。夏は若者たちの季節であり、そして恋の季節でもある。


 水奈と風太は、風太と亜紀は、由美の片思いは、そして仲良しグループの葵、佳奈や美沙、若者たちの青く若い恋は輝き瞬く。


 夜空に瞬き輝く無数の星の数ほどある青春と恋、その恋の行方は・・・・・


 もう夏休みを間近に控えた燃えるような日射しの中、水奈はただひたすらソフトボールに打ち込んでいた。


 まるで男の子みたいに真っ黒に日焼けした顔からは汗が滴っている。朝練も終業時間以降もただひたすらクラブ活動に没頭していた。


 水奈が属するソフトボールクラブは、部員が50人ほども在籍している名門クラブであるが、水菜は1年生でただ1人レギュラー入りし、サードのポジションを勝ち取っていた。


 もともと運動神経は良い方であったが、このところの猛練習で更に磨きがかかり、バッティングも評価は高く、既にクリーンアップを任されるほどだ。


 風太とは、あの日の電話以降まともに口をきいてはいない。いや風太との完全な別れの怖れから、あえて話さえしないように避けていた。


 いつもいつも忘れようと努力していた。しかし心の中に風太の日焼けした男らしい顔が、薄れることはなく刻み込まれていた。


 ただ風太のことを忘れるために、何とか風太のことを考えないために、ソフトボールにのめり込む日々であった。


 亜紀も真っ黒に日焼けしてテニスクラブでがんばっている。最近では時々ではあるが憧れの風太と、やっと話ができるようになっていた。


 もちろん自分からは恥ずかしくて声などかけられない。ただ風太から声がかかるのをひたすら待つだけである。


 でも亜紀は幸せだった。ほんの少しでも風太との距離が近づいている、そんな気がして風太との何気ない挨拶や僅かな会話が、亜紀の幸せの全てだった。


 水奈とは相変わらず仲良しの親友ではあるが、風太の話は一切しないと決めていた。話しをすると、今の幸せが壊れそうな気がして・・・・・


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