第18話 無理だよ

 胸の奥がずっと痛い・・・・・風太くんにあの日電話してから、ずっと痛いままなの。なんか心の中の大事な部分を、鋭いナイフで抉り盗られてしまったみたい。


 学校に行っても、授業中でも、友達と話していても、家て寛いでいるときも、もちろん眠る前も、夢の中でさえ胸は痛い。


 唯一ソフトボールに夢中になっているときだけは、痛みを忘れられる気がする。ううん、忘れようとしてるだけなんだけど。


 あの日、風太くんと電話で話をしたとき、亜紀ちゃんの話をしてみたの。だって亜紀ちゃんって性格もいいし、顔もとっても可愛い女の子なの。


 その亜紀ちゃんが、風太くんにずっと憧れていて、しかもファンクラブの副会長さんなんだって聞いたとき、水奈じゃ敵わないかなって思っちゃった。


 だって同じ女の子から見ても、まるでテレビのアイドルみたいに、憧れちゃうほど可愛いんですもの。


 でもね、本当は信じていたんだ。風太くんとは小さいときからの許婚っていうのかな。水奈の結婚相手は、風太くんって決めていたんだもん。ほかの男の子のことなんか考えたこともなかった。


 亜紀ちゃんが可愛くても、亜紀ちゃんが風太くんのファンであっても、2人の将来は絶対に変わるはずがないって信じていたの。


 だから電話で亜紀ちゃんの話をしたときも、はっきり『俺はみずな以外の女の子は興味がない。水奈と結婚するんだから』って言ってくれると信じていた。


 でもね、風太くんも年頃の男の子、可愛い女の子には勝てないのかな。とっても悲しいけど、可愛さじゃ水奈は亜紀ちゃんに敵わないもの。


 風太くんの本当の気持ちを確かめたくって、わざと言ってみたの。『亜紀ちゃんと付き合ってみたら』って。もちろん本気じゃないよ。風太くんがすぐに否定してくれると信じていたから・・・・・


 でもそんなこと勝手に思い込んでいたのは、水奈だけだったんだね。


 『結婚しようね』って言ってた小さいときの約束なんか、誰だって大きくなると忘れちゃうんだね。それが普通なんだよね。


 風太くんとのすれ違いがあってから、顔を合わせても挨拶さえできない。挨拶どころか目線さえ合わせられない。


 だって怖いもの。風太くんに目を合わせときにぷいっと横を向かれたら、挨拶したら知らん顔して無視されちゃったら、水菜泣いちゃうかもしれないもの。


 もう許婚じゃなくなっても、せめて昔からの仲が良かった親友でいたい。親友じゃなくても仲が良い友だちでいたい。


 たとえ風太くんが亜紀ちゃんと付き合い始めても、せめて仲良しのままでいられたら・・・・・


 だって無理だよ、急に知らん顔した他人なんかになれないもの。だから怖くて近寄れない。本当は風太くんの方から、今までどおりの笑顔で接してくれたら嬉しいんだけど。

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