第12話 儚い想い

 大勢の人の流れに押し出されて、亜紀ちゃんと一緒にホームに押し出された。


 「夜野くん、本当にありがとう」


 「おう、これからは気をつけろよ」


 鉛みたいに重い心のまま教室に継いた。


 「おはよう」


  「オッス」


  あちこちから朝の挨拶が飛び交う。


 オレは顔を上げずに、無言のまま右手を上げて挨拶に応えた。


 オレの席は南窓側の一番後ろにある。腰を下ろしたけど、相変わらず顔も下ろしたままだ。なんか上を向けねぇよ。


 アイツは来てるのかな? 水奈は?


 水奈の席は廊下側の後ろから2番目。いつもならオレが目線を合わせると、ニコッと微笑む。いつもなら・・・・・


 隣の佐藤って、いつもやたら元気なバカ野郎が声をかけてきた。


 「おい風太、なんか今日は元気ねぇな」


 その声をきっかけにやっと顔を上げた。


 「バカか。 いつもと変わんねぇよ」


 水奈の席が視界に入る。いた水奈が。でも今日はこっちを向かないし、動かないで前をじっと見ている。


 何なんだよ。 オレには挨拶さえもなしかよ。 ムカつくよりも、胸の奥がなぜかズキンと痛んだ。


 あっという間に午前中の授業は終わり、待望の昼休み。天気が良いので、いつもの仲間たちと屋上に出て昼ご飯。


 午前中の楽しみは昼ご飯だけである。


 今日は屋上はいっぱいだった。1年だから上級生に睨まれないように、日が当たらない場所に座りこんだ。


 バカ佐藤が誰か知り合いを見つけたのか手を降っている。5、6人の女の子のグループだった。


 距離はかなり離れてるけど、水奈の顔があった。亜紀ちゃんもいた。


 水奈はオレと目が合うとすぐに目線をそらした。亜紀ちゃんはニコッと笑って軽く会釈しているように見えた。


 何を話してるんだろ? 何人かは知ってる顔がいる。普段は全く気にしないのに、今日はなぜか気になった。


 昨日の水奈からの電話があってから落ち着かない。水奈のことばかり頭から離れないんだ。悔しいけど。


 昼休みはあっけなく終わる。オレと水奈の儚い恋みたいに・・・・・


 午後の授業も上の空。先生が口を動かしているのはわかっているが、言葉が耳に入ってこない。


 終業時間のチャイムがなり、みんなクラブへ、そして帰宅の準備を始める。


 あちこちの運動クラブから声がかかっているが、まだどのクラブにも入ってないから、強いて言うと帰宅部かな。


 帰り際に水奈が入っているソフトボール部の活動に、つい目を奪われた。振られちゃんたんだな。 これが失恋なのかな?


 風太にとっては、生まれて初めての切ない経験であった・・・・・

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