第9話 別れの予感

 父さんや母さんに、からかわれるのはいつものことだ。でも水奈の話だけは苦手なんだよ。二人ともオレと水奈は勝手に許嫁だと思い込んでるから・・・・・


 さんざんかわれてから自室に戻った。ベットに横になる。買物まではだいぶ時間があるから、ひと眠りすることにした。


 なんか嫌な夢だった。何かを追いかけても追いかけても、手が届く瞬間に手からスルリと抜け出していく。


 それが何かはわからいないけど、夢の中で、オレは必死になって追いかけていた。


 どこからか、鈴木雅之の『別れの街』の歌声が聞こえてくる。こっちは必死になって追いかけてるのに。


 追いかけていた何かを、やっと捕まえた途端に夢が壊れ目覚めた。


 鈴木雅之の歌声が流れている。電話だ。 スマホの着信音を着メロに変えていたのを忘れかけていた。


 ベッドから夢で疲れきった身体を起こし、机の上のスマホをゆっくりと掴んだ。


 画面を見ると相手の電話番号が表示されていた。水奈の電話番号だった。大分前から着メロが流ていたのかもしれない。急いで通話ボタンを押した。


 「・・・・・・・・・・・・・・・」


 電話の向こうは何故か押し黙っている。


 「もし、もし、水奈か?どうした?」


 「うん・・・・・」


 「おい、なに黙ってるんだよ。自分からかけてきたくせに」


 半分笑いながら、やさしく話しかける。何だかよくわからないけど、水奈は固くなっているようだった。


 中学校が一緒だった亜紀ちゃんという女の子の話が出た。顔は覚えていた。頭が良く顔も可愛い女生徒だった。


 オレ個人としては、まったく興味が無いし面倒くせえな、が本音だ。


 なんか、その亜紀ちゃんがオレに憧れてるとかいう話を、水奈が話す。


 だからどうしたんだよ。亜紀ちゃんがオレに憧れてるから何だって言うんだよ。意味わかんねえよ。


 水奈のやつ、オレと亜紀ちゃんが付き合えばいいんじゃないみたいな言い方するんだ。おい、ふざけんなよ。


 オレにとって、女性は母さんと水奈だけなんだよ。小さい頃約束しただろう。


 『結婚しよう』って・・・・・


 忘れちゃったのかよ。それともただの子供の頃の冗談だと思ってたのか?いや、もしかしたら水奈、好きな男でもできちゃったのかよ・・・・・


 でも、でもショックだよな。ずっと子供の頃から好きだった水奈に、結婚するつもりだった水奈に、そんなこと言われるとは思ってもみなかった。


 男だから、男だから、泣きはしないけど胸が痛い。穴が開いちゃいそうに。

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