第3話 恋人みたいに
高校では、ラッキーなことに風太くんと同じクラスだった。
本当は毎日一緒にいたかったが、さすがに高校までの電車で20分ほどかかる朝の通学時間は、2人での登校は難しくなった。
私はいつも早めに登校するし、風太くんは毎朝、時間ギリギリで走り込んでくる毎日だったから。
ある日私が珍しく寝坊しちゃった朝、いつものように満員電車の中、後ろから肩をトントンって叩かれたの。
驚いて首だけ後ろに回したら、同じ高校の制服の胸だけ見えた。上を見上げたら、風太くんの顔が笑っていた。
「今日は随分、遅いじゃねえか。水奈、寝坊したのか?」
「風太くん、おはよう。電車で会うのなんか初めてだね」
左肩をガッシリした大きな手で掴まれて、体の向きをぐるんと変えられた。
風太くんと真正面から向き合う。嬉しいけど、ちょっと恥ずかしかった。
満員電車だから、揺れる度に周りから押されて風太くんにピッタリ密着。なんか抱き締められてるみたい。
風太くんの胸、すっごく厚くて広くて、大きいの。そして温かい。
電車が大きく揺れるのを言い訳に、風太くんの胸に顔を埋め、鞄を持っていない右手を、風太くんの男らしい腰に回した。
「相変わらずメチャ揺れるな」
風太くんも、水奈の左肩を握っていた右手を背中まで回して、水奈をぐっと抱きしめる。
もうこのままずっと一緒にいたい。
風太くんと離れたくないよ。
なんか恋人同士みたいに、風太くんに押し付けた胸の鼓動が感じるの。
いつもは大嫌いな満員電車の20分なのに、今日は時間なんか全然気にならない。
「水奈、おまえいい匂いするな」
風太くんの声が頭の上から聞こえる。朝シャンしといて本当に良かった。毎日、毎朝、風太くんと、こんな通学時間が過ごせればいいのに・・・・・
幸せな時間はあっという間に過ぎていく。まだほんのわずかな時間しか経っていないはずなのに、電車はあっという間に降車駅のホームに滑りこんだ。
下車するドアに背中を向けていたけど、風太くんがしっかり抱きかかえるようにしてホームに降ろしてくれた。
ホームには同じ高校の制服姿がどっと吐き出され、改札口に流れて行く。風太くんも知り合いの顔を見つけたらしく、大きな声で声をかけた。
「水奈、じゃあな。たまには寝坊しろよ」
もう風太くんたら、寝坊しろなんて、なに変なこと言ってるんだろう。
あれ、もしかしたら寝坊したら、また一緒の電車で行けるから、水奈のこと誘ってるのかな・・・・・
友達と話しながら改札口を出ていく見慣れたはずの風太くんの後ろ姿が、朝陽に輝いて見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます