シャーベット
ㅤ冷凍保存した思い出を、シャーベットにしてグラスに盛り付ける。
ㅤあの夜に山の上で見た流れ星を宿したその瞳は、シャリシャリと音を立てて氷の粒になる。こうして、反芻して、嚥下して、あと何度繰り返せるのだろう。冷凍庫の中、減っていく思い出の残滓にそっと触れれば、微かな痛みと共に簡単に溶け出す。それが恐ろしくて、冷凍庫の扉を慌てて閉じた。シャーベットは溶けかけている。スプーンで掬い、舌の上に乗せれば、もう跡形も無い。あと何度、あとどのくらい、残っているのだろうか。
ㅤなくなってしまったなら、また、思い出を積み重ねるところから始めなければいけない。積み重ねて、煮詰めて、奥底に仕舞い込んで、固めて、凍らせて、時折舐めてみる。それはずっとずっと変わらずに胸の奥底を騒がせる。
ㅤなくなってしまったなら、また、思い出を探すことから始めなければいけない。
ㅤなくなってしまう。なくなって。
ㅤシャリシャリと、削れて、とろりと、溶けて。
なくなってしまった。全部。
ㅤあなたはもういないのに。
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