終わりよければ
ㅤ君のたった一人の最後になりたかった。そうすれば、これまでの、介入できなかった記憶全てが清算される気がした。崖の上で繋いだ手の温かさは鮮明に思い出せる。震えていたのは、どちらだったのか。一歩踏み出したのは、同時だった。お互い、間違いなく、躊躇いなく飛んだ。落ちていく間、君の澄んだ目を見て、私は初めて心から笑えた気がした。
ㅤあのときは、これがハッピーエンドだと信じて疑わなかった。きっと君もそうだったのだと思う。悲しいくらい楽観主義な私達は、こんな未来を予想することなどできなかった。終わりを目の前にして、終わらなかった未来のことなど、考えたくもなかったのかもしれない。
ㅤたった一人、生き延びてしまうなんて。
ㅤ呼吸もできない私は、ただ毎日君のことを考えている。あの日、私達は崖になど向かわなければよかったのだろうか。喫茶店で深煎り珈琲など飲んで、苦味に顔を顰め、カフェインで痛む頭を抱えながら、それでも楽しそうに笑う君を、そのまま家に送り届ければよかったのだろうか。そんな選択、有り得たのだろうか。
ㅤ私は欲張りだったのだと思う。君と明日を夢見るよりも、君を引きずり下ろしてしまいたかった。これからを共に形作るよりも、終わらせてしまいたかった。そうして、全てが手に入る気がした。ハッピーエンドなど夢見ずに、平和に、静かに、君の側にいればよかったのだ。
ㅤ私が欲張りでなかったなら、君をたった一人にすることもなかったし、泣いている君を慰めることもできたのに。それでも、私のために君が泣いてくれるのなら、これがハッピーエンドのような気もするのだから、救えない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます