魔女

ㅤ魔女のパーティーに参加するためには人間の血肉を持っていかなければいけない。真夜中の教会は薄暗く、差し込む月の光しか光源が無い。昼間は綺麗に照らされているステンドグラスはどんよりと曇り、描かれた人物が恨みがましくこちらを見つめているような気すらする。打ち捨てられた教会の内部には人の気配は無く、静謐な空気が漂っていた。その中央には真新しい柩が置かれ、その側に小さな白木のテーブルがあった。少女は、柩の前で立ち止まると、持っていた籠をそこに置く。そして中からワインの瓶とワイングラスを取り出し、テーブルに置いた。


「こんばんは。姉さん」


ㅤひどく優しい声音で、少女は柩に語りかける。少女の青白い手が朽木を組み合わせたような質素な柩の蓋を撫でた。少女の金の髪が月の光を反射して揺れる。この髪も、蜂蜜を溶かしたような瞳も、姉とよく似ている。少女はワインの栓を抜くと中身をグラスに注いだ。


「今日はね、姉さん。お隣さんが家に来たよ。あたしがずぅっと家から出ないから心配だったんだって。このワインはね、貰ったの。」


ㅤ少女は一度グラスをテーブルに置くと、柩の蓋に手をかけた。今にも崩れ落ちそうな蓋を開ける。中には、辛うじて人の形を保った黒い塊が在った。少女は柩の中へと「姉さん」と呼びかける。姉の体の胸元であろうところには少女が持ってきたものと同じ籠が置いてある。少女は姉の体を崩さないようにと気遣いながら、それを新しいものと取り替える。

少女の姉は魔女であった。村人達に魔女であると告発されたのだ。だから彼女は魔女であった。少女は、姉の胸元に『お隣さん』を入れた籠を乗せた。


「姉さんにはほら、これ。乾杯しましょう!」


ㅤそう言って少女はグラスを掲げる。手作りであろう籠の隙間から零れた赤が姉の体を伝い、柩の底に溜まった。

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