黄泉竈食

「二人で一緒に帰ろうね。」

ㅤ指切りした道を一人で歩く。左右に茂る木々がこちらを推し潰そうとしている気すらする。空気が重い。カラスが鳴いている。夕暮れ時だ。もう、帰らないといけない。だけどその前にあの子を迎えに行かないといけない。夕日に照らされて仄かに朱が移った道を歩く。ずぅっと、どこまでも続いているような気すらする。間に合わないかもしれない。道を進む足が速まる。駆け出した。下駄を片方落としたが、振り返っている暇は無い。

ㅤ見えた。

ㅤ蔦に囲まれた廃屋が目に入る。あの、奥に、あの子がいる。もはや扉としての体を成していない穴だらけの扉を開ける。そこに、あの子は、居た。真っ赤な着物におかっぱのあのこが、落ちた首を抱えてこちらを見ている。紅を引いたように赤い唇は、仄かに笑んでいる。

ㅤ会えた。

ㅤ安堵が押し寄せ、膝から崩れ落ちる。もう、間に合わないかと思った。

「迎えに来てくれて、ありがとう。」

ㅤあの子が口を開く。喉の奥から絞り出したような、掠れた声だった。水を持ってこようとすると、腕を掴まれた。弾みであの子が抱えていた頭が転がる。あの子の手は、冬の夜道で繋いだときのように冷たい。

「あのね、お願いがあるの。」

ㅤ壁に当たって止まったあの子の頭が言った。

「なぁに?」

ㅤあの子の手を両手で包み、問いかける。これで少しは温かくならないかしら。

「そこにある釜で、あたしを茹でてくださいな。」

ㅤ包んでいない方の手で、あの子が指さしたのは、鉄の釜だ。いつの間にか火がついている。近づいて蓋を開けてみると、お湯が沸いていた。

「あたしの頭を茹でて、食べてくださいな。」

ㅤあの子がそう言うなら。転がっていた頭を拾う。こちらは手とは違って仄かに温かい。ゆっくりとお湯の中に入れると、あの子の綺麗な黒髪が広がった。

ㅤしばらく茹でて、茹でて、茹でて、溶けて、混ざって、あの子が液体になってから、私はそれを器に注いだ。気が付いたらあの子の体はどこにもなくて、着物だけが落ちていた。

ㅤあの子をそっと口に運ぶ。温かい。

ㅤざざぁ、と風が吹いて、扉が閉じた。

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