3. 客室にて

「こちらでございます。お食事は13時半からでございます。こちらまでお持ちいたします。」

 仲居さんに案内されてお部屋に入る。

 わあ、広い! 目の前には海と空が広がる絶景!

「ごゆっくり、おくつろぎください。」

 仲居さんが戻っていくと、私達は窓辺に向かう。

「景色がすごい綺麗!」

「そうでしょ! 琴葉と来たかったの!」

 窓辺に置かれた、年季の入った様に見える木製の椅子に腰かけて、2人で海と空を眺める。窓から入ってくる潮風が首筋をくすぐって気持ちいい。

「お食事まで時間はあるからのんびりしましょう?」

 そう言って櫻子は畳にごろんと寝転がる。

 こんな無防備な櫻子、見たことない!

「琴葉もおいで?」

 そんな姿勢でそんなことを言われたら。

 櫻子の傍で私も寝転んで向かい合う。

「……可愛い。」

 櫻子がそう囁いて私を抱き寄せてくる。

 甘く爽やかなラベンダーの香りが私を撫でる。

 櫻子が今日も首筋に練り香水をつけているのだろう。

 この香りを嗅ぐと私は、櫻子に抱きしめられているとより強く感じてとろけそうになる。

「……櫻子も、綺麗です。」

 2人の顔が近くて、相手の吐息すら感じてしまう。

 まだお風呂はこれからなのに。

 お風呂ってことはつまり櫻子の身体を目にすることになるというわけで。

 2人きりではない大浴場といっても。……初めてだから、どうしていいかわかんない。

「琴葉。……不安なの?」

「一緒にお風呂なんて、初めてじゃないですか。」

「そうね……。私も、教え子とお風呂なんて、なんていけない先生なのかしらと思ってるわ。でも……。私は、琴葉と一緒にお風呂に入りたいし。それに……。」

 ここで櫻子が話すのをやめる。考えてながら話してるのかな。

「琴葉が卒業して、同棲できるようになったら。その時は2人だけでお風呂も一緒に入りたい。……そして、もっと琴葉を愛して私だけのものにしたいの。でも今は絶対に貴女に手を出さない。それが先生としての私の矜持。何があってもこれだけは貫くわ。」

「櫻子……。」

「だから今日は、ちょっとだけそんな未来を夢見させて。先取りさせて。」

「そんな風に言われたら……。もう私だって、櫻子との未来しか、見えなくなっちゃいますよ。」

 私が卒業して、櫻子とのお泊まりが解禁されたら。

 今よりももっと深く、もっと強く。櫻子と結ばれるのでしょう。

 卒業まで残り半年と少し。時の彼方に待つ夢。きっと私よりも。櫻子のほうが強く望んでいるであろうそれを思いながら、私と櫻子は部屋で寄り添っていた。

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